憲法の力を信じて。

法的主張と違憲違法構造の整理

法的主張と違憲違法構造の整理

このページでは、本件において問題となる法的主張と、辞職勧告決議を中心として形成された違憲・違法構造を整理します。

本件は、単に一地方議会が一議員に対して辞職を求めたという問題ではありません。刑事責任が確定していない段階で、地方議会が公的機関として有罪を前提とするような政治的意思表示を行い、その後も是正されないまま公的記録として残され続けたことにより、無罪推定、適正手続、裁判を受ける権利、司法権の独立、条約遵守義務などに関わる重大な問題が生じた事案です。

以下では、関係する憲法、国際法、法律の順序に従い、各法規範の内容と本件へのあてはめを整理します。


1 このページの目的

本ページの目的は、本件における法的問題を、感情論や政治的評価ではなく、憲法、国際法、法律に基づいて整理することにあります。

特に重要なのは、次の点です。

第一に、平成23年10月26日及び同年12月1日の辞職勧告決議は、いずれも刑事責任が確定していない段階で行われたものです。

第二に、これらの決議は、法的拘束力を持たない意思表示であるとしても、地方議会という公的機関が行った公的意思表示である以上、憲法及び国際人権法上の制約を免れるものではありません。

第三に、その後、須賀川市及び須賀川市議会が、これらの決議について十分な検証や是正を行わず、むしろ「適正に処理された」かのような外観を維持してきたことにより、人権侵害の状態が継続しているという問題があります。

第四に、本件の核心は、刑事事件そのものをこのページで再審理することではなく、刑事責任未確定段階における公的機関の行為が、憲法及び国際人権法に照らして許されるのかという点にあります。


2 用語と略称の統一

本ページでは、以下の正式名称及び略称を用います。

2-1 国際人権規約関係

「市民的及び政治的権利に関する国際規約」を、以下「ICCPR」といいます。

ICCPRは、国際連合で1966年に採択され、1976年に発効した国際人権条約です。日本は1979年に批准しています。

ここでいう「批准」とは、国家が条約の内容を正式に受け入れ、その条約に拘束される意思を国際的に表明する手続をいいます。つまり、日本がICCPRを批准したということは、日本国内の国会、裁判所、行政機関、地方公共団体を含む国家全体が、ICCPRに定められた人権保障を誠実に守る立場に立ったということです。

ICCPRは、刑事手続における無罪推定、公正な裁判を受ける権利、実効的救済を受ける権利などを定めています。これは、単なる理念や努力目標ではありません。日本が締約国として受け入れた国際法上の義務です。

この点で重要なのが、憲法98条2項です。同条は、日本国が締結した条約及び確立された国際法規を誠実に遵守することを必要とすると定めています。したがって、ICCPRは、国内の公的機関が軽視してよい外部文書ではなく、日本の法秩序の中で尊重されるべき法規範です。

本件でICCPRが重要となるのは、刑事責任が確定していない段階で、地方議会という公的機関が有罪を前提とするような辞職勧告決議を行ったからです。これは、ICCPR14条2項の無罪推定に直接関わります。

「自由権規約委員会一般的意見第32号」を、以下「一般的意見32号」といいます。

自由権規約委員会とは、ICCPRの実施状況を監視し、各締約国が規約上の義務を守っているかを審査する国連の機関です。

一般的意見とは、自由権規約委員会が、ICCPRの各条項について、どのように理解すべきかを示した権威ある解釈指針です。

一般的意見そのものは、国会で制定された法律ではありません。また、条約本文そのものでもありません。しかし、だからといって、単なる参考意見や一委員会の私見として軽視できるものではありません。

自由権規約委員会は、ICCPRの実施状況を監視するために設けられた条約機関です。その委員会が、各国の国家報告の審査、個人通報に関する見解、長年の実務を踏まえて、ICCPRの意味内容を整理したものが一般的意見です。

したがって、一般的意見は、ICCPRの条文を国内で解釈・適用する際の重要な国際的基準となります。

一般的意見の位置づけを整理すると、次のようになります。

第一に、一般的意見は、ICCPRの条文そのものではありません。したがって、一般的意見だけを根拠として新たな権利義務を国内法上当然に創設するものではありません。

第二に、しかし一般的意見は、ICCPRの条文をどのように理解すべきかを示す権威ある解釈資料です。日本はICCPRを批准している以上、ICCPRの条文を解釈する際に、自由権規約委員会の一般的意見を無視することはできません。

第三に、一般的意見は、国内法を条約に適合するように解釈する際の重要な指針となります。国内法上の制度や運用について複数の解釈があり得る場合には、ICCPR及び一般的意見に適合する解釈が優先されるべきです。

第四に、一般的意見は、裁判所、行政機関、地方公共団体、地方議会が、自らの行為が国際人権基準に適合しているかを検討する際の基準となります。

つまり、一般的意見は「条文そのものではないが、条文の意味を明らかにするために無視できない国際的解釈基準」です。

本件では、この位置づけが極めて重要です。なぜなら、須賀川市議会による辞職勧告決議が、ICCPR14条2項の無罪推定に反するかどうかを判断するには、無罪推定がどの範囲の公的機関に及ぶのかを確認する必要があるからです。その判断において、一般的意見32号は重要な基準となります。

一般的意見32号は、ICCPR14条の解釈を示すものです。特に重要なのは、無罪推定が裁判所だけでなく、すべての公的機関に及ぶと示している点です。

つまり、無罪推定は、裁判官や検察官だけが守ればよいものではありません。地方議会、市長、市職員、監査委員その他の公的機関も、有罪が確定していない者を有罪であるかのように扱ってはならないということです。

「自由権規約委員会一般的意見第31号」を、以下「一般的意見31号」といいます。

一般的意見31号は、ICCPR2条に基づく締約国の一般的義務を示すものです。特に、ICCPR2条3項に基づく実効的救済義務について重要な解釈を示しています。

実効的救済とは、単に「どこかに相談してください」と案内することではありません。権利侵害を受けた者が、実際に利用でき、かつ権利回復につながる救済を受けられることを意味します。

したがって、本件において、須賀川市又は須賀川市議会が「法務局に相談してください」「係争中なので答えません」「弁護士に一任しています」などと述べるだけで、過去の辞職勧告決議の違憲性・違法性を検証せず、説明も是正もしないのであれば、それはICCPR2条3項の趣旨に反します。

2-2 条約法関係

「条約法に関するウィーン条約」を、以下「VCLT」といいます。

VCLTは、条約の締結、効力、解釈、終了などに関する基本的なルールを定める条約です。日本については、1981年に効力が生じています。

VCLTが重要なのは、国家が条約を守るにあたり、条約をどのように誠実に履行し、どのように解釈すべきかについて、基本的なルールを定めているからです。

本件との関係で重要となるのは、VCLT26条、27条、31条、32条、33条です。

まず、VCLT26条は、「合意は守られなければならない」という国際法の基本原則を定めています。これは、いわゆる「pacta sunt servanda」と呼ばれる原則です。

この原則により、日本は、ICCPRを批准した以上、その内容を誠実に履行しなければなりません。ICCPRは、単なる外交上の努力目標ではなく、日本が国際的に守ることを約束した法的義務です。

次に、VCLT27条は、国が国内法を理由として条約の不履行を正当化することはできない旨を定めています。

この原則からすれば、地方議会の辞職勧告決議について、「法的拘束力を持たない意思表示にすぎない」「議会の政治的判断である」「地方自治の問題である」などと説明しても、それだけでICCPR上の義務を免れることはできません。

地方自治も、議会運営も、国内法上の制度です。しかし、それらは憲法及び日本が批准した条約に反して運用することはできません。

さらに、VCLT31条は、条約解釈の一般規則を定めています。同条は、条約を、その文脈により、かつ条約の趣旨及び目的に照らして、誠実に解釈しなければならないとするものです。

この点は、本件で極めて重要です。ICCPR14条2項の無罪推定を解釈する場合、条文の文言だけを狭く読むのではなく、ICCPRが人権保障を目的とする条約であること、刑事責任未確定者を国家機関による有罪視から保護する趣旨を有することを踏まえて解釈しなければなりません。

したがって、無罪推定を「裁判所内部だけの原則」と狭く解釈することは、ICCPRの趣旨及び目的に反します。地方議会、市長、市職員、監査委員などの公的機関も、ICCPR14条2項の趣旨に従い、有罪確定前の者を有罪であるかのように扱ってはなりません。

また、VCLT32条は、条約解釈の補足的手段について定めています。条文の意味を確認する場合や、31条による解釈だけでは意味が曖昧な場合には、条約の準備作業や締結時の事情などを補足的に参照できるとされています。

本件では、ICCPR14条2項の無罪推定の意味を確認するために、自由権規約委員会の一般的意見、特に一般的意見32号を参照することが重要です。一般的意見は、VCLT32条が直接列挙する準備作業そのものではありませんが、ICCPRの条約機関が長年の実務を踏まえて示した解釈資料であり、条文の意味を確認し、具体的事案に適用するうえで重要な補足的資料となります。

さらに、VCLT33条は、複数の言語で正文が作成された条約の解釈について定めています。

ICCPRの正文は、日本語ではなく、国連で採択された複数の正文言語に基づきます。したがって、日本語訳だけを形式的に読んで狭く解釈するのではなく、正文、条約の文脈、趣旨及び目的、国際的解釈基準を踏まえて理解する必要があります。

この点からも、ICCPR14条2項の無罪推定やICCPR2条3項の実効的救済義務を、日本国内の便宜的な理解だけで限定することはできません。

以上を踏まえると、本件では、地方議会の決議であること、法的拘束力を持たないこと、議会に政治的裁量があることは、無罪推定や実効的救済義務を否定する理由にはなりません。

VCLT26条、27条、31条、32条、33条を合わせてみれば、日本の公的機関は、ICCPRを誠実に履行し、条約の趣旨及び目的に沿って解釈し、国内法や議会運営上の形式論によって人権保障を後退させてはならない、という結論になります。

2-3 国内法関係

「日本国憲法」を、以下「憲法」といいます。

「刑事訴訟法」を、以下「刑訴法」といいます。

「地方自治法」を、以下「地自法」といいます。


3 憲法上の問題

3-1 憲法13条――個人の尊重、名誉、人格権

憲法13条は、すべて国民が個人として尊重されることを定めています。

本件では、刑事責任が確定していない段階で、地方議会が辞職勧告決議を行いました。地方議会による公的な決議は、私人の意見表明とは異なり、社会的信用、名誉、政治的立場に重大な影響を及ぼします。

そのため、刑事責任未確定段階で、あたかも有罪が確定したかのような評価を前提に辞職を求めることは、個人の尊重、名誉、人格権を侵害するものです。

特に、議員として選挙により選ばれた地位は、単なる私的地位ではなく、有権者の意思に基づく公的地位です。その地位を、司法判断確定前に政治的圧力によって奪おうとすることは、本人の人格権だけでなく、有権者の意思にも重大な影響を与えます。

3-2 憲法31条――適正手続

憲法31条は、適正な手続によらなければ、生命、自由その他の権利利益を奪われないことを保障するものです。

本件の辞職勧告決議は、法的拘束力を持たない意思表示であったとしても、実質的には議員辞職を求める強い政治的圧力として機能しました。

刑事責任が確定していない段階で、地方議会が公的に辞職を迫ることは、司法手続の結論を待たずに、社会的・政治的制裁を先行させるものです。

これは、適正な刑事手続を経て有罪無罪が判断されるべきという憲法31条の趣旨に反します。

3-3 憲法32条――裁判を受ける権利

憲法32条は、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないと定めています。

裁判を受ける権利は、単に裁判所に訴える形式的な機会が存在すれば足りるものではありません。公正で中立な環境のもとで、司法判断を受ける実質的な権利を含みます。

本件では、刑事責任未確定段階で、地方議会による辞職勧告決議が繰り返されました。これは、司法判断の前に、公的機関が有罪を前提とする社会的評価を形成したものです。

そのような状況は、被告人が中立な環境で裁判を受ける権利を損なうものであり、憲法32条上の問題を生じさせます。

3-4 憲法37条1項――公平な裁判所による迅速な公開裁判

憲法37条1項は、刑事被告人に対し、公平な裁判所による迅速な公開裁判を受ける権利を保障しています。

本件の問題は、裁判所そのものの公平性だけに限定されません。裁判の外部において、公的機関が有罪を前提とするような意思表示を行い、それが社会的圧力として作用した場合、被告人を取り巻く裁判環境全体が損なわれます。

地方議会による辞職勧告決議が、刑事裁判の進行中または判決確定前に繰り返されたことは、公平な裁判を受ける実質的基盤を侵害するものです。

3-5 憲法38条――黙秘権、自白強要の禁止、自白法則

憲法38条は、何人も自己に不利益な供述を強要されないこと、強制、拷問、脅迫による自白又は不当に長く抑留・拘禁された後の自白は証拠とすることができないこと、また、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には有罪とされないことを定めています。

本件では、刑事責任未確定段階で地方議会が辞職勧告決議を行い、社会的・政治的に有罪を前提とする外観を形成しました。

このような外部的圧力は、取調べ及び供述形成の環境にも影響し得ます。被疑者・被告人が、すでに公的機関から有罪視され、社会的に追い込まれている状況では、自己に不利益な供述をしない自由が実質的に損なわれる危険があります。

したがって、本件では、単に供述内容の信用性だけでなく、その供述が形成された環境そのものが、憲法38条の趣旨に照らして問題となります。

特に、地方議会による辞職勧告決議、報道、市民感情、政治的圧力が重なった状況で作成された供述については、任意性及び信用性を慎重に検討しなければなりません。

3-6 憲法76条1項――司法権の独立

憲法76条1項は、すべて司法権は最高裁判所及び法律の定める下級裁判所に属すると定めています。

刑事責任の有無を判断する権限は、裁判所に属します。地方議会は、刑事責任の有無を判断する機関ではありません。

そのため、刑事責任未確定段階で、地方議会が有罪を前提とするような政治的意思表示を行い、辞職を求めることは、司法判断に先立って事実上の制裁を加えるものであり、司法権の領域を侵害するものです。

本件の辞職勧告決議は、形式的には議会の意思表示であっても、実質的には司法判断の前に公的評価を形成した点において、憲法76条1項との関係で重大な問題があります。

3-7 憲法98条1項・2項――最高法規性と条約遵守義務

憲法98条1項は、憲法が国の最高法規であり、これに反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しないと定めています。

憲法98条2項は、日本国が締結した条約及び確立された国際法規を誠実に遵守することを必要とすると定めています。

したがって、地方議会や地方公共団体の行為も、憲法及び日本が締結した人権条約に反してはなりません。

本件では、ICCPR14条2項が保障する無罪推定、ICCPR2条3項が求める実効的救済義務との整合性が問題となります。

3-8 憲法99条――公務員の憲法尊重擁護義務

憲法99条は、天皇、摂政、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員に対し、憲法を尊重し擁護する義務を課しています。

地方議会議員、市長、市職員、監査委員その他の地方公共団体の関係者も、公務員として憲法尊重擁護義務を負います。

したがって、刑事責任未確定段階で無罪推定を侵害する行為を行うこと、また、その後に問題を認識しながら是正しないことは、憲法99条の趣旨に反します。


4 国際法上の問題

4-1 ICCPR14条2項――無罪推定

ICCPR14条2項は、刑事上の罪に問われている者は、法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定される権利を有すると定めています。

本件では、刑事責任が確定する前に、地方議会が辞職勧告決議を行いました。

この決議が、単なる政治的意見であるとしても、地方議会という公的機関が行った以上、私人の発言とは異なります。公的機関が、有罪確定前の者について、有罪を前提とするような評価を示すことは、無罪推定に反します。

4-2 一般的意見32号――無罪推定はすべての公的機関に及ぶ

一般的意見32号は、無罪推定について、裁判官や検察官だけでなく、すべての公的機関がこれを尊重しなければならないという趣旨を示しています。

この点が、本件では決定的に重要です。

無罪推定は、刑事裁判所の内部だけのルールではありません。行政機関、地方議会、その他の公的機関も、有罪が確定していない者を有罪であるかのように扱ってはなりません。

したがって、須賀川市議会が、刑事責任未確定段階で辞職勧告決議を行ったことは、一般的意見32号が示す無罪推定の趣旨に反します。

4-3 ICCPR2条3項――実効的救済を受ける権利

ICCPR2条3項は、規約上の権利又は自由を侵害された者に対し、実効的救済を確保することを締約国に求めています。

本件では、無罪推定が侵害された疑いがある以上、須賀川市及び須賀川市議会は、その問題について調査、説明、是正を行うべき立場にあります。

単に「係争中である」「弁護士に一任している」「法務局に相談すべきである」などとして、実質的な検証や救済を回避することは、ICCPR2条3項が求める実効的救済義務に反します。

4-4 一般的意見31号――救済義務の具体的内容

一般的意見31号は、ICCPR上の権利侵害について、締約国が実効的救済を提供しなければならないことを示しています。

ここでいう救済は、形式的な窓口案内にとどまるものではありません。権利侵害の主張に対し、実質的にアクセス可能で、かつ効果のある救済でなければなりません。

したがって、須賀川市又は須賀川市議会が、過去の辞職勧告決議について具体的に検証せず、説明も是正もしない場合、それ自体がICCPR2条3項上の問題を生じさせます。

4-5 VCLT26条・27条・31条・32条・33条――条約の誠実履行と条約適合的解釈

VCLT26条は、条約は誠実に履行されなければならないという基本原則を定めています。

日本はICCPRを批准している以上、ICCPR14条2項の無罪推定及びICCPR2条3項の実効的救済義務を、形式的ではなく実質的に履行しなければなりません。

VCLT27条は、国家が国内法を理由として条約の不履行を正当化できないことを定めています。

したがって、本件において、地方議会の辞職勧告決議が「法的拘束力を持たない意思表示」であること、「議会の政治的判断」であること、「地方自治の問題」であることは、ICCPR上の義務を免れる理由にはなりません。

VCLT31条は、条約を、その文脈により、かつ条約の趣旨及び目的に照らして、誠実に解釈しなければならないと定めています。

この点からすれば、ICCPR14条2項の無罪推定を、裁判所内部だけの原則として狭く解釈することはできません。ICCPRは、人権保障を目的とする条約であり、刑事責任未確定者を国家機関による有罪視から保護する趣旨を有します。

したがって、地方議会、市長、市職員、監査委員その他の公的機関も、ICCPR14条2項の趣旨に従い、有罪確定前の者を有罪であるかのように扱ってはなりません。

VCLT32条は、条約解釈の補足的手段について定めています。一般的意見32号及び一般的意見31号は、VCLT32条が直接列挙する準備作業そのものではありませんが、ICCPRの条約機関が長年の実務を踏まえて示した解釈資料であり、条文の意味を確認し、具体的事案に適用するうえで重要な補足的資料となります。

VCLT33条は、複数の言語で正文が作成された条約の解釈について定めています。ICCPRの正文は日本語ではないため、日本語訳だけを形式的に読んで狭く解釈するのではなく、正文、文脈、趣旨及び目的、国際的解釈基準を踏まえて理解する必要があります。

以上により、地方自治も、議会運営も、国内法上の制度である以上、憲法及び日本が批准した条約に反して運用することはできません。地方議会の意思表示であっても、人権保障に反する場合には、違憲・違法の問題を免れません。


5 法律上の問題

5-1 刑訴法336条――犯罪の証明がないときは無罪

刑訴法336条は、被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡しをしなければならないと定めています。

この規定は、刑事裁判における証明責任と無罪推定の国内法上の現れです。

本件で問題となるのは、刑事責任が確定していない段階で、地方議会が事実上、有罪を前提とするような公的意思表示を行った点です。

刑訴法336条の趣旨からすれば、有罪は裁判所において合理的な疑いを超えて証明された場合にのみ認定されるべきものです。地方議会が、その前段階で有罪を前提とするような評価を行うことは、同条の趣旨に反します。

5-2 刑訴法318条――自由心証主義の限界

刑訴法318条は、証拠の証明力は裁判官の自由な判断に委ねると定めています。

しかし、自由心証主義は、裁判官が何でも自由に認定できるという意味ではありません。憲法、ICCPR、刑訴法上の証拠法則、経験則、論理則に従うことが当然の前提です。

したがって、無罪推定を侵害する外部的圧力のもとで形成された供述や、政治的・社会的圧力を背景に作成された調書については、その信用性を通常以上に慎重に検討する必要があります。

刑訴法318条は、供述の信用性評価を裁判官に委ねる規定ではありますが、憲法38条、刑訴法319条、ICCPR14条2項の制約を超えて、有罪方向に自由に評価してよいという根拠にはなりません。

5-3 刑訴法319条――自白法則、補強法則

刑訴法319条は、強制、拷問、脅迫による自白、不当に長く抑留・拘禁された後の自白、その他任意にされたものでない疑いのある自白は、証拠とすることができないと定めています。

また、被告人は、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされません。

本件で重要なのは、供述調書の形式的存在ではありません。その供述が、どのような心理的・制度的環境のもとで形成されたのかという点です。

地方議会による辞職勧告決議が、刑事責任未確定段階で行われ、社会的・政治的に有罪視する外観を形成していた場合、その環境下で作成された供述については、任意性及び信用性に重大な疑問が生じます。

特に、供述内容に変遷がある場合、推測表現が多い場合、客観証拠との整合性が十分でない場合、また直接証拠を欠く場合には、刑訴法319条の趣旨に照らし、自白又は不利益供述に過度に依拠することは許されません。

この点は、刑訴法336条の「犯罪の証明がないときは無罪」とする原則とも一体です。自白又は不利益供述があるから有罪にできるのではなく、その供述の任意性、信用性、補強証拠との整合性が厳格に確認されなければなりません。

5-4 地自法89条――議会の地位と議員の誠実職務義務

地自法89条は、普通地方公共団体に、その議事機関として、住民が選挙した議員をもって組織される議会を置くことを定めています。

また、同条は、議会が重要な意思決定に関する事件を議決し、検査、調査その他の権限を行使する機関であることを示しています。さらに、議会の議員は、住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならないとされています。

この規定からすれば、地方議会は単なる政治的発言機関ではありません。住民の負託を受けた公的機関であり、その権限行使には憲法、国際法、法律に適合した誠実性が求められます。

したがって、刑事責任未確定段階で、議会が有罪を前提とするような辞職勧告決議を行うことは、議会の権限を誠実に行使したものとはいえません。

特に、無罪推定が保障されるべき段階で、住民から選挙された議員の地位を政治的圧力によって失わせようとすることは、地自法89条の趣旨に反します。

5-5 地自法138条の2の2――執行機関の誠実管理・執行義務

地自法138条の2の2は、普通地方公共団体の執行機関が、議会の議決に基づく事務、法令、規則その他の規程に基づく事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し、執行しなければならないことを定めています。

この規定は、市長その他の執行機関が、単に議会や弁護士の判断に従えば足りるというものではなく、地方公共団体の執行機関として、自ら憲法、国際法、法律に適合するかを判断し、誠実に対応すべきことを意味します。

本件では、過去の辞職勧告決議について、無罪推定、適正手続、実効的救済義務との関係で重大な疑義が生じています。

そのような状況で、須賀川市が「議会の問題である」「係争中である」「弁護士に一任している」などとして、主体的な検証、説明、是正を行わないことは、地自法138条の2の2が求める誠実管理・執行義務に反します。

特に、ICCPR2条3項が実効的救済を求め、一般的意見31号が救済の実効性を求めている以上、市の執行機関は、権利侵害の申立てに対し、形式的な回答や窓口案内で済ませることはできません。

5-6 地自法上の問題――地方公共団体の行為も憲法・条約に従う

地自法は、地方公共団体の組織及び運営を定める法律です。

地方議会は、地方自治における重要な機関ですが、その権限行使は無制限ではありません。地方議会の決議も、憲法、国際法、法律に適合していなければなりません。

また、市長その他の執行機関も、地自法138条の2の2に基づき、自らの判断と責任において、誠実に事務を管理し、執行しなければなりません。

したがって、辞職勧告決議が法的拘束力を持たない意思表示であるとしても、それが公的機関による人権侵害を構成する場合には、地自法上も問題となります。

さらに、その後に市又は議会が是正、検証、説明を怠る場合には、過去の決議の問題にとどまらず、現在の救済・是正義務違反としても問題となります。

5-7 財務会計上の問題――違法な公金支出及び怠る事実

本件では、辞職勧告決議そのものだけでなく、その決議に伴う会議、議事録作成、印刷、通知、職員関与等に関する公金支出も問題となります。

違憲・違法な目的又は内容を持つ議会活動に公金が支出された場合、その支出は適法性を欠きます。

また、須賀川市が、そのような違法な公金支出について、原因者に対する損害賠償請求権その他の財産上の請求権を調査、判断、行使しない場合、地自法242条1項にいう「財務会計上の行為を怠る事実」が問題となります。

特に、本件では、過去の支出を単に問題にするだけではなく、市が現在に至っても「適正に処理された」とする立場を維持し、違法性を検証していない点が重要です。

これは、過去の違法行為の問題にとどまらず、現在の財務会計上の不作為又は不適法な判断の問題として整理されます。


6 本件における違憲・違法構造

6-1 第一段階――刑事責任未確定段階での辞職勧告決議

本件の出発点は、刑事責任が確定していない段階で、須賀川市議会が辞職勧告決議を行ったことです。

平成23年10月26日の第1回辞職勧告決議は、逮捕後、起訴前又は刑事責任確定前の段階で行われました。

平成23年12月1日の第2回辞職勧告決議も、判決確定前の段階で行われました。

この時点では、無罪推定が最大限尊重されるべきでした。それにもかかわらず、地方議会が公的に辞職を求めたことにより、有罪を前提とする社会的・政治的圧力が形成されました。

6-2 第二段階――公的機関による有罪前提の外観形成

辞職勧告決議は、単なる個人の意見ではありません。地方議会の議決として行われ、公的記録に残るものです。

そのため、決議が行われること自体により、社会に対して「議会として辞職を求めるほどの非違行為があった」という外観が形成されます。

刑事責任未確定段階でこのような外観が形成されることは、無罪推定を破壊するものです。

6-3 第三段階――裁判環境への制度的圧力

地方議会による辞職勧告決議は、刑事裁判そのものの証拠ではありません。

しかし、公的機関が有罪を前提とするような評価を社会に示すことは、刑事被告人を取り巻く環境に重大な影響を与えます。

特に、地方議会、報道、市民感情が結びついた場合、被告人は「すでに有罪である」とする社会的圧力の中で裁判を受けることになります。

これは、憲法31条、32条、37条1項、38条、76条1項、ICCPR14条2項の趣旨に反します。

6-4 第四段階――是正されないまま継続する人権侵害

本件の問題は、過去の辞職勧告決議だけではありません。

その後、須賀川市及び須賀川市議会が、これらの決議について十分な検証や是正を行わず、現在に至るまで公的記録として残していることも重大です。

過去の決議が誤っていた可能性があるにもかかわらず、これを検証せず、是正しないことは、名誉回復及び実効的救済を妨げます。

そのため、本件では、過去の人権侵害と現在の救済不履行が一体となった違憲・違法構造が存在します。

6-5 第五段階――市及び議会の説明責任

市及び議会は、過去の決議について「適正に処理された」とするのであれば、少なくとも次の点を説明する必要があります。

  1. 刑事責任未確定段階で辞職勧告決議を行うことが、なぜ無罪推定に反しないのか。
  2. ICCPR14条2項及び一般的意見32号との整合性をどのように説明するのか。
  3. 憲法31条、32条、37条1項、38条、76条1項との関係で、どのように正当化されるのか。
  4. 憲法38条及び刑訴法319条との関係で、外部的・制度的圧力が供述形成に与えた影響をどのように検討したのか。
  5. VCLT26条、27条、31条に照らし、ICCPRを誠実に履行し、条約の趣旨及び目的に沿って解釈したといえる根拠は何か。
  6. 地自法89条及び138条の2の2に照らし、議会及び市の執行機関が、憲法・国際法・法律に適合するよう自ら検証し、是正したといえる根拠は何か。
  7. 決議に伴う公金支出について、違法性の有無をどのように検討したのか。
  8. 権利侵害を主張する者に対して、ICCPR2条3項上の実効的救済をどのように提供するのか。

これらに答えないまま、「法的拘束力がない」「政治的意思表示である」「係争中である」などと述べるだけでは、憲法及び国際人権法上の説明責任を果たしたことにはなりません。


7 「法的拘束力がない」とする説明の限界

辞職勧告決議については、「法的拘束力を持たない意思表示にすぎない」と説明されることがあります。

しかし、この説明だけでは本件の問題は解消されません。

なぜなら、本件で問題としているのは、辞職勧告決議によって直ちに法的に議員資格を失ったかどうかではないからです。

問題は、刑事責任未確定段階で、地方議会という公的機関が、有罪を前提とするような公的意思表示を行い、その結果として社会的・政治的圧力を形成したことです。

法的拘束力がないとしても、公的機関による人権侵害は成立し得ます。

むしろ、法的拘束力がないにもかかわらず、実質的には辞職を迫る圧力として機能した点に、本件の重大性があります。


8 「議会の裁量」とする説明の限界

地方議会には、一定の政治的裁量があります。

しかし、地方議会の裁量は、憲法及び国際人権法の範囲内でのみ認められます。

議会の多数決によっても、無罪推定を侵害することはできません。

議会の政治的判断によっても、裁判所の判断に先立って刑事責任を前提とする社会的制裁を加えることはできません。

したがって、本件を単なる議会裁量の問題として処理することはできません。


9 「過去の問題」とする説明の限界

本件について、「すでに過去の問題である」とする見方もあり得ます。

しかし、その理解は不十分です。

第一に、辞職勧告決議は、公的記録として現在も残っています。

第二に、市及び議会が、これを検証せず、是正せず、適正であったかのような外観を維持している限り、名誉回復の妨害は現在も続いています。

第三に、ICCPR2条3項は、権利侵害に対して実効的救済を求めるものであり、過去の侵害であっても、救済が提供されていない限り、現在の問題として扱われます。

したがって、本件は単なる過去の政治的出来事ではありません。現在もなお、検証と是正が求められる人権問題です。


10 本件の結論

本件における核心は、次の一点に集約されます。

刑事責任が確定していない段階で、地方議会が公的に辞職を求め、有罪を前提とするような社会的・政治的圧力を形成することは、無罪推定、適正手続、公正な裁判を受ける権利、司法権の独立、条約遵守義務に反する重大な問題である、ということです。

そして、その後、市及び議会がこの問題を検証せず、是正せず、公的記録として維持していることは、ICCPR2条3項が求める実効的救済義務にも反します。

本件は、過去の一事件にとどまるものではありません。

地方議会が刑事責任未確定段階の者をどのように扱うべきか、無罪推定を公的機関がどこまで尊重すべきか、権利侵害に対して地方公共団体がどのような救済義務を負うのかという、憲法秩序及び国際人権法上の重要な問題を含んでいます。

そのため、本件については、須賀川市及び須賀川市議会による真摯な検証、説明、是正が不可欠です。


11 要点の整理

本ページの要点は、以下のとおりです。

  1. 辞職勧告決議は、法的拘束力を持たない意思表示であっても、公的機関による公的意思表示である。
  2. 刑事責任未確定段階で有罪を前提とするような公的意思表示を行うことは、無罪推定に反する。
  3. 無罪推定は、裁判所だけでなく、地方議会、行政機関を含むすべての公的機関に及ぶ。
  4. 本件は、憲法13条、31条、32条、37条1項、38条、76条1項、98条、99条、ICCPR14条2項、ICCPR2条3項、VCLT27条、刑訴法318条、319条、336条、地自法89条、138条の2の2、242条1項との関係で重大な問題を有する。
  5. 「法的拘束力がない」「議会の裁量である」「過去の問題である」という説明では、本件の違憲・違法構造は解消されない。
  6. 須賀川市及び須賀川市議会には、検証、説明、是正、名誉回復に向けた実効的対応が求められる。

以上が、本件における法的主張と違憲違法構造の基本的整理です。

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