第5部 救済を求める活動の経過
判決確定後の申立て・是正要求と実効的救済の問題
はじめに
本第5部では、判決確定後に、圓谷年雄がどのように救済を求めてきたのか、その経過を整理する。
第1部では、事故発生から議員辞職までの確認できる事実を整理した。
第2部では、事故発生、逮捕、供述調書の作成、辞職勧告決議、起訴、公判、有罪判決、判決確定、議員辞職に至るまでの時系列を整理した。
第3部では、有罪認定に残る合理的疑い、供述形成過程、記憶欠落、事故時刻、代行連絡、経路、目撃情報、公判での認否、量刑理由の問題を検証した。
第4部では、判決確定前に須賀川市議会が有罪前提の辞職勧告決議を行い、その状態の下で刑事手続が進行したことを、無罪推定原則の侵害として整理した。
本第5部では、その後の問題を扱う。
すなわち、判決確定後も、無罪推定侵害、供述形成過程、公正裁判、不利益供述強要禁止、実効的救済の問題について、実質的な検証や救済がなされていないこと、そして圓谷年雄がこれに対して、日本弁護士連合会への人権救済申立て、裁判所への意見書・申入書等の提出、再審請求事件としての取扱い、質問状兼申入書、人権侵害救済・是正申立て、須賀川市及び須賀川市議会への是正要求等を行ってきた経過を整理する。
本件の問題は、過去の一時点で終わったものではない。
判決前の公的有罪視が存在し、その下で刑事手続が進行したにもかかわらず、その人権侵害について実効的救済が与えられていないのであれば、問題は現在も継続している。
なぜ今も救済を求めるのか
本件については、2012年(平成24年)1月31日に有罪判決が確定している。
しかし、判決が確定したことによって、判決前の無罪推定侵害が当然に消えるわけではない。
また、判決が確定したことによって、判決前に公的機関が有罪前提の評価を行った事実が正当化されるわけでもない。
第4部で整理した通り、起訴前・勾留中に第1回辞職勧告決議が行われ、初公判前・有罪判決前に第2回辞職勧告決議が行われた。
その状態の下で、勾留、取調べ、供述変遷、起訴、公判での認否、有罪判決が進行している。
さらに、判決書の証拠標目には、これらの決議に賛成した市議会議員2名の供述調書も掲げられている。
このような事情がある以上、判決確定後であっても、本件刑事手続が本当に適正であったのか、無罪推定原則が実質的に保障されていたのか、公正な裁判を受ける権利が守られていたのかについて、検証される必要がある。
圓谷年雄が現在も救済を求めているのは、過去を蒸し返すためではない。
公的機関による無罪推定侵害が存在し、その下で刑事手続が進行したにもかかわらず、現在に至るまで実質的救済が与えられていないからである。
救済を求める根拠
本件で求めている救済は、単なる感情的な名誉回復ではない。
根拠は、憲法及び国際人権法にある。
ICCPR第14条第2項は、刑事上の罪に問われている者について、法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定される権利を保障している。
また、同条第1項は、公正な裁判を受ける権利を保障している。
同条第3項(g)は、自己に不利益な供述又は有罪の自白を強要されない権利を保障している。
さらに、ICCPR第2条第3項は、規約上の権利を侵害された者に対し、実効的救済を確保する義務を締約国に課している。
国連自由権規約委員会の一般的意見31号は、規約上の権利が侵害された場合、締約国がアクセス可能かつ実効的な救済を確保しなければならないこと、また救済を与えないこと自体が規約上の独立した問題となり得ることを示している。
日本はICCPRを批准している。
また、憲法98条第2項は、日本国が締結した条約を誠実に遵守することを定めている。
さらに、条約法に関するウィーン条約27条は、国内法を理由として条約の不履行を正当化することはできないと定めている。
したがって、国内法上の手続が存在しないこと、再審要件に直ちに該当しないこと、又は既存の制度では扱いにくいことは、権利侵害に対する救済をしない理由にはならない。
日本弁護士連合会への人権救済申立て
2024年(令和6)年3月7日、圓谷年雄は日本弁護士連合会に対し、本件について人権救済申立て及び再審支援申立てを行った。
申立ての中心は、判決前の公的有罪視、無罪推定侵害、供述形成過程の問題、及び実効的救済不提供であった。
しかし、2024年(令和6年)10月23日、日本弁護士連合会は「支援不相当」との決定を行い、支援を受けるには至らなかった。
裁判所に提出した意見書・申入書等
判決確定後、圓谷年雄は、本件について、裁判所に対し、意見書及び申入書等を提出してきた。
これらの書面で中心としていたのは、単なる刑事訴訟法上の再審要件だけではない。
中心となる主張は、判決前に公的機関である須賀川市議会が有罪前提の辞職勧告決議を行い、その無罪推定侵害の下で、勾留、取調べ、供述変遷、起訴、公判での認否、有罪判決が進行したという点である。
また、事故時刻の変遷、運転代行への連絡、供述形成過程、記憶欠落、判決前の辞職勧告決議に賛成した市議会議員2名の供述調書が刑事判決の証拠標目に掲げられていることなども、本件刑事手続の公正性を検証すべき事情として主張してきた。
つまり、圓谷年雄が裁判所に対して問題提起してきたのは、単に「刑事訴訟法上の再審事由があるか」という点だけではない。
本件刑事手続が、無罪推定侵害という重大な人権侵害の下で進行したことを、憲法及びICCPR上どのように評価するのかを問うものであった。
裁判所による再審請求事件としての取扱い
圓谷年雄が提出した意見書及び申入書等に対し、裁判所は事件番号を付し、再審請求事件として取り扱った。
このことは、裁判所が、提出された書面を司法上まったく無関係なものとして扱ったわけではないことを示している。
しかし、問題は、その後の審理において、圓谷年雄が主張した無罪推定侵害、公正裁判侵害、不利益供述強要禁止違反、実効的救済義務違反について、実質的に応答したのかという点である。
圓谷年雄が問題としている核心は、単に刑事訴訟法上の再審要件に該当するかどうかに尽きるものではない。
問題は、無罪推定が侵害された状態の下で刑事手続が進行したことを、憲法31条、37条、38条、ICCPR第14条第1項・第2項・第3項(g)、及びICCPR第2条第3項との関係で、どのように評価するのかという点にある。
したがって、本件を再審請求事件として形式的に処理する場合であっても、裁判所には、無罪推定侵害、公正裁判侵害、不利益供述強要禁止違反、実効的救済義務違反という法的主張について、実質的に応答することが求められる。
単に「再審要件に当たらない」「判決は確定している」という刑事訴訟法上の形式的処理だけでは、本件の核心に答えたことにはならない。
なお、具体的な第一次再審請求の経過は、次項で整理する。
第一次再審請求の経過
令和7年4月28日、上述のとおり、再審請求事件として係争した。
令和7年12月12日、福島地方裁判所郡山支部は再審請求を棄却した。
令和8年1月8日、仙台高等裁判所第1刑事部(裁判長裁判官加藤亮、裁判官柴田雅司、裁判官井草健太)は即時抗告を棄却した。
決定理由には「原決定に理由不備はなく、原裁判所の訴訟手続に審理不尽の違法は認められない。憲法違反をいう点は前提を欠き失当である」と記載されている。
令和8年2月6日、最高裁判所第三小法廷(裁判長裁判官平木正洋、裁判官林道晴、裁判官渡辺惠理子、裁判官石兼公博、裁判官沖野眞已)は特別抗告を棄却した。
決定理由には「本件抗告の趣意は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法第433条の抗告理由に当たらない」と記載されている。
以上により、第一次再審請求は、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所のすべての段階で棄却された。
しかし、本サイトの立場からは、この経過において、圓谷年雄が問題としている核心、すなわち無罪推定侵害、公正裁判侵害、不利益供述強要禁止違反、実効的救済義務違反という法的主張について、各審級が実質的に応答したものとは評価できない。
特に、最高裁判所は「憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張」と評価したが、ICCPR第14条第2項及び一般的意見32号30項との関係で問われるべき実質的問題が審理されないまま形式的に棄却された点は、問題として残る。
質問状兼申入書
圓谷年雄は、裁判所に対して、質問状兼申入書を提出した。
その趣旨は、単に再審を求めるというものにとどまらない。
本件において、判決前の公的有罪視が存在し、その状態の下で刑事手続が進行したことについて、裁判所としてどのように評価するのかを問うものである。
特に、以下の点が問題となる。
須賀川市議会による第1回及び第2回辞職勧告決議は、ICCPR第14条第2項及び一般的意見32号30項に照らして、無罪推定侵害に当たるのではないか。
その無罪推定侵害下で、勾留、取調べ、供述変遷、起訴、公判での認否、有罪判決が進行したことを、適正手続及び公正裁判保障の観点からどのように評価するのか。
判決前の辞職勧告決議に賛成した市議会議員2名の供述調書が、刑事判決の証拠標目に掲げられていることを、裁判の公正性との関係でどのように評価するのか。
判決が確定していることによって、判決前の無罪推定侵害が治癒されるのか。
救済しない場合、ICCPR第2条第3項に基づく実効的救済義務との関係でどのように説明するのか。
これらは、抽象的な法律相談ではない。
具体的な刑事事件、具体的な市議会決議、具体的な供述調書、具体的な有罪判決に関する問いである。
人権侵害救済・是正申立て
圓谷年雄は、本件について、人権侵害救済・是正申立てを行っている。
この申立ては、事故時刻、代行連絡、呼気濃度、運転可能性等に関する実体的無罪主張そのものを主たる対象とするものではない。
主たる対象は、判決前の公的有罪視、無罪推定侵害、公正裁判侵害、不利益供述強要禁止違反、及び実効的救済義務違反である。
すなわち、本件では、刑事責任が確定していない段階で、公的機関である須賀川市議会が有罪を前提とする辞職勧告決議を行い、その状態の下で、刑事手続が進行した。
そして、その問題について、現在に至るまで実質的な救済が与えられていない。
この点こそが、人権侵害救済・是正申立ての中心である。
須賀川市への是正要求
圓谷年雄は、須賀川市に対しても、本件について是正を求めている。
須賀川市は、地方公共団体として、憲法及び条約に基づく人権保障を尊重すべき立場にある。
本件では、須賀川市議会による辞職勧告決議が問題となっているが、須賀川市としても、過去の議会対応、関連する公文書、現在のホームページ掲載状態、事実証明書の発行等を通じて、本件に関与してきた。
特に、過去の辞職勧告決議を「適正に処理した」とする趣旨の対応がなされた場合、それは過去の無罪推定侵害を現在も肯定するものとなり得る。
そのため、圓谷年雄は、須賀川市に対して、本件が憲法及びICCPR上どのように評価されるのか、また、無罪推定侵害についてどのような是正措置を講じるのかを問うている。
須賀川市が「係争中」や「弁護士に一任している」として実質的回答を避ける場合であっても、地方公共団体としての人権尊重義務がなくなるわけではない。
市が過去の対応を現在も正当化し続けるなら、その正当性は、憲法及びICCPRに照らして説明されなければならない。
須賀川市議会への是正要求
圓谷年雄は、須賀川市議会に対しても、是正を求めている。
本件の中心にあるのは、須賀川市議会による第1回及び第2回辞職勧告決議である。
第1回決議は起訴前・勾留中に、第2回決議は初公判前・有罪判決前に行われ、いずれも刑事責任が確定していない段階で、市議会が辞職を求める公的意思表示を行ったものである。
さらに、第2回決議では、圓谷年雄が「飲酒運転を認めた」ことや、「在職中に飲酒運転をした」ことを前提とする趣旨の発言がなされている。
これらの決議が、ICCPR第14条第2項及び一般的意見32号30項に照らして、無罪推定侵害に当たるのではないかが問題である。
また、これらの決議に賛成した市議会議員2名の供述調書が、同じ刑事事件において、検察官に対する供述調書として判決書の証拠標目に掲げられている。
この点からも、本件は単なる議会内の政治的意思表示にとどまらない。
市議会による公的有罪視が、刑事裁判の証拠構造にも接続していた問題である。
したがって、須賀川市議会は、過去の辞職勧告決議について、無罪推定原則、公正裁判保障、適正手続保障との関係で、実質的な検証と是正を行うべきである。
住民監査請求・住民訴訟との関係
圓谷年雄は、本件に関連して、住民監査請求及び住民訴訟にも取り組んできた。
住民監査請求・住民訴訟では、主として公金支出、財務会計行為、怠る事実等が問題となる。
しかし、その背景には、須賀川市議会による辞職勧告決議が憲法及びICCPR上どのような問題を有するのかという、より根本的な問題がある。
本件では、判決前の辞職勧告決議、議事録作成、議会運営、関連支出、過去の対応を現在も適正とする市の姿勢などが問題となっている。
したがって、住民監査請求・住民訴訟は、単なる金銭支出の問題にとどまらず、無罪推定侵害を公的機関がどのように扱ってきたのかを検証する手段でもある。
ただし、本第5部では、住民訴訟の詳細な法的主張までは扱わない。
ここでは、判決確定後も、圓谷年雄が公的機関に対して救済・是正を求め続けている経過の一部として位置づける。
現在の到達点
現在、圓谷年雄は、本件について、次の点を明らかにすることを求めている。
判決前に、須賀川市議会が有罪前提の辞職勧告決議を行ったことは、ICCPR第14条第2項及び一般的意見32号30項に照らして無罪推定侵害に当たるのではないか。
その無罪推定侵害の下で、勾留、取調べ、供述変遷、起訴、公判での認否、有罪判決が進行したことを、適正手続及び公正裁判保障との関係でどのように評価するのか。
判決前の辞職勧告決議に賛成した市議会議員2名の供述調書が、刑事判決の証拠標目に掲げられていることを、裁判の公正性との関係でどのように評価するのか。
判決が確定していることによって、判決前の無罪推定侵害は治癒されるのか。
第一次再審請求において各審級が示した決定は、これらの法的主張に実質的に応答しているといえるのか。
救済しない場合、ICCPR第2条第3項及び一般的意見31号に照らして、実効的救済不提供の問題が生じないのか。
これらの問いに対して、国家機関、地方公共団体、市議会、裁判所が実質的に答えることが求められている。
本件は、判決が確定したから終わった事件ではない。
判決確定前の無罪推定侵害があり、その下で刑事手続が進行し、現在に至るまで実効的救済が与えられていないという、現在進行形の人権問題である。
小括
本第5部では、判決確定後に圓谷年雄が行ってきた救済活動の経過を整理した。
日本弁護士連合会への人権救済申立て、裁判所への意見書及び申入書等の提出、第一次再審請求、質問状兼申入書、人権侵害救済・是正申立て、須賀川市及び須賀川市議会への是正要求、住民監査請求・住民訴訟は、いずれも本件の無罪推定侵害とその後の救済不提供を問題とするものである。
具体的には、日本弁護士連合会への人権救済申立ては、令和6年3月7日に行われ、同年10月23日に「支援不相当」とされた。
第一次再審請求は、令和7年4月28日に提起され、令和8年2月6日の最高裁判所決定により棄却が確定した。
本件の核心は、判決確定前に公的機関が有罪前提の評価を行い、その状態の下で刑事手続が進行したことである。
そして、その問題について、現在に至るまで実質的な検証と救済がなされていないことである。
したがって、本件において求められるのは、単なる形式的な回答ではない。
憲法、ICCPR、一般的意見、VCLT、刑事訴訟法及び地方自治法の全体構造に照らし、無罪推定侵害下で進行した刑事手続をどのように評価するのか、そしてどのような救済・是正が可能なのかを、実質的に検討することである。
