資料の概要
資料名:
平成23年(わ)第177号 道路交通法違反被告事件 判決書
宣告日:
2012年(平成24年)1月16日
確定日:
2012年(平成24年)1月31日
作成主体:
福島地方裁判所郡山支部
裁判官:
根崎修一
事件名:
道路交通法違反被告事件
被告人の職業:
市議会議員
資料の種類:
刑事判決書
掲載形式:
個人情報等を必要な範囲で非公開処理したPDF
原文PDF:
この資料で確認できる事実
本資料は、福島地方裁判所郡山支部が、2012年(平成24年)1月16日に宣告した道路交通法違反被告事件の判決書である。
→起訴状についての 詳細は「福島地方検察庁郡山支部起訴状―午後7時40分頃とされた公訴事実」を参照。
判決書の右上には、2012年(平成24年)1月31日に確定した旨の記載がある。
事件番号は、平成23年(わ)第177号である。
被告人の職業は、市議会議員と記載されている。
主文では、被告人を懲役1年に処するとされている。
また、この裁判が確定した日から3年間、その刑の執行を猶予するとされている。
したがって、本判決は、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決である。
罪となるべき事実では、被告人が、酒気を帯び、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で、2011年(平成23年)10月18日午後7時40分頃、福島県須賀川市内の道路において、普通乗用自動車を運転したと認定されている。
この点で、本判決は、事故又は運転の時刻について、午後7時40分頃という時刻を採用している。
証拠の標目には、被告人の公判廷における供述、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書、関係者の供述調書、捜査報告書、酒酔い鑑識カード、実況見分調書等が掲げられている。
判決書上、関係者の供述調書の一部については、氏名部分が黒塗りされている。
なお、PDF画像上には、黒塗り部分に関する赤字注記を付した。
この赤字注記は、判決書本文そのものではなく、資料の位置付けを説明するための注記である。
法令の適用では、道路交通法第117条の2第1号及び第65条第1項に該当するとされ、懲役刑が選択されている。
その上で、情状により刑法第25条第1項を適用し、裁判確定の日から3年間、刑の執行を猶予するとされている。
量刑上特に考慮した事情では、被告人が同僚市議らと飲食店で相当量の酒を飲み、酒に酔っていることを認識していたにもかかわらず、自ら運転して帰宅しようとして犯行に及んだものと認定されている。
判決は、このような犯行に及んだ経緯について、甚だ安易であって、酌量の余地はないとしている。
また、被告人が、ダイエット中であったため通常より酔ってしまったことや、運転代行が来なかったことなどを事情として挙げたことについても、自らの体調に応じて飲酒することは被告人自身の責任であり、運転代行についても、被告人が正しく駐車場所を伝えなかったことや、十分に連絡を取り合うことなく自ら運転を開始したことが認められるとして、これらの事情を被告人に有利に斟酌すべきものとは考えられないとしている。
さらに、飲酒検知の結果、被告人の呼気1リットル中のアルコール分が0.71ミリグラムに及んでいたこと、ガードレールに衝突する事故を起こすなど、運転操作が適切にできないほど酔っていたことが認められるとして、本件犯行の態様も悪質であるとしている。
加えて、被告人は現職の市議会議員という立場にあり、市民の代表として高い遵法精神が求められていたにもかかわらず、酒酔い運転という故意犯に及んだことは強い非難に値するとされている。
判決は、須賀川市民に与えた衝撃と失望は軽視できないとも述べている。
その一方で、被告人が公判廷で事実を素直に認め、反省の態度を示していること、今後は二度と飲酒しないと約束していること、被告人に前科前歴がないことなど、被告人に有利に斟酌すべき事情も認められるとしている。
その上で、以上の事情を総合的に考慮し、被告人に対しては主文の刑に処した上、今回に限ってはその刑の執行を猶予することが相当であると判断されている。
求刑は懲役1年である。
重要な記載
本資料で特に重要なのは、判決が、罪となるべき事実として、2011年(平成23年)10月18日午後7時40分頃という時刻を採用している点である。
本件では、逮捕容疑及び警察段階の資料では、事故時刻は午後7時50分頃として扱われていた。
実況見分調書においても、午後7時50分頃という時刻が採用されていた。
ところが、2011年(平成23年)11月2日の検察官面前調書において、本人の供述は午後7時40分頃へ変更されている。
その後、同月9日の起訴状では、変更後の午後7時40分頃が採用され、本判決でも午後7時40分頃が罪となるべき事実として認定されている。
この時刻変更は、本件の立証構造を検証する上で重要である。
午後7時50分頃と午後7時40分頃とでは、代行業者との連絡履歴、事故現場までの走行時間、目撃情報との整合性、運転開始時刻及び供述変更の信用性に関わる前提が変わる。
したがって、本判決が午後7時40分頃を採用している以上、その変更理由及び変更後の時刻を裏付ける客観的根拠は、重要な検証対象となる。
次に重要なのは、判決が、証拠の標目として、被告人の公判廷供述、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書、第三者の供述調書、捜査報告書、酒酔い鑑識カード、実況見分調書等を掲げている点である。
これらの証拠は、本判決の事実認定及び量刑判断の前提となる。
しかし、本判決の理由中では、各証拠が、運転者性、事故時刻、走行経路、事故態様及び飲酒状況の各認定にどのように用いられたのかについて、詳細な対応関係は示されていない。
特に、本件では、本人が運転開始、走行経路及び事故態様について明確に記憶していない趣旨の供述をしていたことが問題となる。
本人の直接記憶ではなく、捜査側から示された情報や資料を前提として形成された推測供述であるならば、それをどの範囲で有罪認定の基礎とできるのかが問題となる。
また、本判決は、量刑上特に考慮した事情として、被告人が同僚市議らと飲食店で相当量の酒を飲み、酒に酔っていることを認識していたにもかかわらず、自ら運転して帰宅しようとして犯行に及んだものと認定している。
しかし、判決書上、この「同僚市議ら」との飲酒状況をどの証拠により、どのように認定したのかは、具体的には明示されていない。
証拠の標目には、第三者の検察官に対する供述調書として甲6及び甲7が掲げられている。
PDF画像上の赤字注記のとおり、この黒塗り部分には、当時の須賀川市議会議員2名の氏名が記載されており、両名は本件辞職勧告決議の可決に賛成した議員でもあるとされている。
この赤字注記は判決書本文そのものではないが、証拠構造を検証する上では重要な補足情報である。
同僚市議の供述調書が判決の証拠標目に掲げられており、かつその同僚市議が辞職勧告決議の賛成者でもあったという関係があるならば、供述調書の位置付け、証拠評価、辞職勧告決議に至る過程、及び刑事裁判の公正との関係を慎重に検討する必要がある。
さらに重要なのは、判決が、市議会議員という地位を量刑上不利な事情として明確に評価している点である。
判決は、被告人が現職の市議会議員という立場にあり、市民の代表として高い遵法精神が求められていたにもかかわらず、酒酔い運転という故意犯に及んだことは強い非難に値するとしている。
また、須賀川市民に与えた衝撃と失望は軽視できないとしている。
このように、裁判所は、市議会議員という地位を量刑上不利な事情として扱っている。
一方で、本判決の理由中には、同じ市議会から、判決前に第1回及び第2回辞職勧告決議が行われていた事実について検討した記載は確認できない。
第1回辞職勧告決議は、起訴前、勾留中、本人欠席の段階で行われている。
第2回辞職勧告決議は、初公判前、判決前、本人退場後に行われている。
それにもかかわらず、本判決は、少なくとも判決理由の記載上、これらの公的機関による判決前の有罪視又は辞職圧力が、刑事裁判の公正、無罪推定、供述形成及び公判廷での認否に与えた影響を検討していない。
この点は、本判決を検証する上で極めて重要である。
本判決は、被告人が公判廷で事実を素直に認め、反省の態度を示していることを、有利な情状として評価している。
しかし、本件では、逮捕直後の否認報道、身柄拘束下での取調べ、供述調書の変遷、検察官面前調書における午後7時40分頃への変更、判決前の辞職勧告決議という一連の経過が存在する。
したがって、公判廷で事実を認めたことが、どのような供述形成過程の中で生じたのかを検証せずに、単純に自白及び反省として評価してよいのかが問題となる。
本資料は、裁判所が何を認定したのかを示す資料であると同時に、裁判所が何を具体的に説明していないのかを示す資料でもある。
刑事手続上の位置付け
本資料は、2012年(平成24年)1月16日に言い渡された刑事裁判の判決書である。
本件では、2011年(平成23年)10月19日に逮捕され、同月21日に検察官送致され、その後、勾留及び勾留延長を経て、刑事手続が進行した。
この刑事手続の途中で、2011年(平成23年)10月26日、須賀川市議会は第1回辞職勧告決議を可決している。
第1回辞職勧告決議は、起訴前、勾留中、本人欠席の段階で行われた。
したがって、本件では、検察官面前調書の作成、起訴、公判、判決に至る前の段階で、すでに公的機関である市議会による辞職勧告決議が存在していた。
その後、2011年(平成23年)11月2日に検察官による取調べが行われ、検察官面前調書が作成された。
本件では、この検察官面前調書において、事故時刻又は運転時刻に関する供述に重大な変更が生じた。
具体的には、それまで午後7時50分頃として扱われていた時刻が、午後7時40分頃へ変更されている。
同年11月9日には、福島地方検察庁郡山支部により起訴状が作成され、公訴事実として、2011年(平成23年)10月18日午後7時40分頃に運転したものと記載された。
つまり、検察官面前調書で生じた午後7時40分頃への変更は、その後、起訴状の公訴事実として裁判所へ提出された。
さらに、2011年(平成23年)12月1日、須賀川市議会は第2回辞職勧告決議を可決している。
第2回辞職勧告決議は、初公判前、判決前、本人退場後に行われた。
したがって、本件では、起訴後ではあるものの、刑事裁判の審理が開始される前に、再び公的機関である市議会による辞職勧告決議が行われていた。
その後、2011年(平成23年)12月26日に初公判が開かれ、2012年(平成24年)1月16日に本判決が言い渡された。
したがって、本資料は、逮捕、送致、勾留、勾留延長、検察官取調べ、起訴、第2回辞職勧告決議、初公判を経た刑事手続の終局判断を示す資料である。
本判決では、起訴状と同じく、午後7時40分頃という時刻が罪となるべき事実として採用されている。
この点は、2011年(平成23年)11月2日の検察官面前調書で生じた午後7時40分頃への変更が、起訴状の公訴事実を経て、最終的に判決の事実認定として採用されたことを示している。
また、本判決は、被告人が公判廷で事実を素直に認め、反省の態度を示していることを、有利な情状として評価している。
しかし、本件では、逮捕直後の否認報道、身柄拘束下での取調べ、供述調書の変遷、検察官面前調書における時刻変更、起訴前の第1回辞職勧告決議、初公判前かつ判決前の第2回辞職勧告決議という一連の経過が存在する。
そのため、本判決は、単に有罪判決が存在することを示す資料ではない。
本判決は、身体拘束を伴う刑事手続の中で形成された供述、午後7時40分頃とされた公訴事実、判決前に存在した辞職勧告決議、証拠採用及び量刑判断が、最終的にどのように判決へ接続したのかを検証するための資料でもある。
判決書と事件の記録と検証 第3部の関係
本資料は、単に有罪判決が存在することを示す資料ではない。
本資料は、本件刑事裁判において、裁判所がどの事実を認定し、どの証拠を掲げ、どの点を判決理由中で説明し、どの点を説明していないのかを確認するための中心資料である。
本サイトの事件の記録と検証 第3部では、本件の供述調書について、本人の体験記憶に基づく自白ではなく、記憶が欠落した状態で、捜査側から示された情報を前提として、推測により構成された供述にとどまるのではないかという問題を整理している。
この問題は、捜査段階の供述形成だけにとどまらない。
否認から推測供述形成への転換、公判廷での認否、そして判決理由まで、一つの構造として連続している。
そのため、本判決書を検討する際には、判決が掲げた証拠の標目だけを見るのでは足りない。
重要なのは、判決が、供述形成過程、事故時刻の変更、運転者性の証明、代行業者との連絡履歴、呼気濃度と走行距離の整合性、目撃情報の証拠化、及び判決前の辞職勧告決議の存在を、どのように扱ったのかである。
本判決は、罪となるべき事実として、2011年(平成23年)10月18日午後7時40分頃という時刻を採用している。
しかし、本件では、逮捕容疑及び警察段階の資料では、事故時刻が午後7時50分頃として扱われていた。
実況見分調書においても、午後7時50分頃という時刻が採用されていた。
その後、2011年(平成23年)11月2日の検察官面前調書において、午後7時40分頃へ変更され、起訴状及び本判決でも午後7時40分頃が採用されている。
この時刻変更は、単なる10分の違いではない。
事故時刻は、代行業者との連絡履歴、自ら運転を開始したとされる時点、事故現場までの約11.5キロメートルの走行時間、目撃情報との整合性、検察官面前調書における供述変更の信用性、合理的疑いを超える証明の有無を検討するための基準点である。
したがって、本判決が午後7時40分頃を採用している以上、その変更理由及び客観的根拠は、本来、重要な検証対象となる。
また、本判決は、被告人が公判廷で事実を素直に認め、反省の態度を示していることを、有利な情状として評価している。
しかし、本件では、本人が運転開始、走行経路及び事故態様について明確に記憶していない趣旨の供述をしていたこと、捜査側から示された事故状況、車両位置、携帯電話の発着信履歴、目撃情報、実況見分結果等を前提として供述が構成されていたことが問題となる。
そのような供述形成過程が存在する場合、公判廷で事実を認めたことを、単純に体験記憶に基づく自白又は反省として評価してよいのかが問題となる。
さらに、本判決は、被告人が運転操作が適切にできないほど酔っていたと認定している。
他方で、本件では、須賀川市役所駐車場付近から事故現場まで、約11.5キロメートルを走行したとされている。
高いアルコール検知値、運転操作が適切にできないほど酔っていたとの認定、約11.5キロメートルの走行認定が並存する以上、その両立可能性、道路状況、所要時間及び走行経過については、具体的な検証を要する。
本判決は、証拠の標目に実況見分調書及び捜査報告書を掲げている。
しかし、判決理由中では、それらの証拠が運転者性、走行経路、事故時刻及び事故態様の認定にどのように用いられたのかについて、詳細な説明は確認できない。
また、目撃情報についても、本件では検察官面前調書の中で、捜査結果として本人に示された情報として現れている。
しかし、少なくとも本判決書上、当該目撃者本人が公判廷で証言し、弁護人による反対尋問を受けた事実は確認できない。
この点も、運転者性及び事故時刻の認定を検証する上で重要である。
したがって、本判決書の証拠価値は、有罪判決の存在を示すことだけにあるのではない。
本判決書の証拠価値は、むしろ、裁判所が午後7時40分頃という時刻を採用し、被告人の公判廷供述を有利な情状として評価し、市議会議員という地位を量刑上不利に評価しながら、その前提となる供述形成過程、時刻変更、客観証拠との整合性、及び判決前の公的有罪視について、判決理由中でどこまで説明しているのかを検証できる点にある。
この資料から生じる疑問
1 なぜ判決は午後7時40分頃という時刻を採用したのか
本判決では、罪となるべき事実として、2011年(平成23年)10月18日午後7時40分頃という時刻が採用されている。
しかし、本件では、逮捕容疑及び警察段階の資料では、事故時刻又は運転時刻が午後7時50分頃として扱われていた。
実況見分調書においても、午後7時50分頃という時刻が採用されていた。
その後、2011年(平成23年)11月2日の検察官面前調書において、午後7時40分頃へ変更され、起訴状及び本判決でも午後7時40分頃が採用されている。
この時刻変更について、判決理由中では、どの証拠に基づき、なぜ午後7時40分頃を採用したのかが具体的に説明されているのか。
午後7時50分頃から午後7時40分頃への変更は、代行業者との連絡履歴、走行開始時刻、事故現場までの所要時間、目撃情報との整合性、供述変更の信用性に関わるため、重要な検証対象である。
2 判決は、記憶欠落下で形成された可能性のある供述をどのように評価したのか
本件では、本人が運転開始、走行経路及び事故態様について明確に記憶していない趣旨の供述をしていたことが問題となる。
その場合、捜査側から示された事故状況、車両位置、携帯電話の発着信履歴、目撃情報、実況見分結果等を前提として、本人が推測により供述を構成した可能性がある。
このような供述は、本人の体験記憶に基づく自白とは性質が異なる。
判決は、被告人の供述調書及び公判廷供述を証拠及び情状として掲げているが、その供述がどのような形成過程を経たものかについて、どこまで検討しているのか。
3 公判廷での自白を、単純に反省として評価してよかったのか
本判決は、被告人が公判廷で事実を素直に認め、反省の態度を示していることを、有利な情状として評価している。
しかし、疑問2で示したように、本件では、記憶欠落下で形成された可能性のある供述を、裁判所がどのように評価したのかが問題となる。
また、本件では、逮捕直後の否認報道、身柄拘束下での取調べ、供述調書の変遷、検察官面前調書における午後7時40分頃への変更、判決前の辞職勧告決議という一連の経過が存在する。
このような経過がある場合、公判廷で事実を認めたことを、単純に体験記憶に基づく自白又は反省として評価してよいのか。
供述形成過程、外部的圧力、議会決議、報道状況を検討せずに、公判廷供述を量刑上有利な事情として扱ったことは十分だったのか。
4 約11.5キロメートルの走行認定と高いアルコール検知値は、どのように整合するのか
本判決は、飲酒検知の結果、被告人の呼気1リットル中のアルコール分が0.71ミリグラムに及んでいたこと、ガードレールに衝突する事故を起こすなど、運転操作が適切にできないほど酔っていたことを認定している。
他方で、本件では、須賀川市役所駐車場付近から事故現場まで、約11.5キロメートルを走行したとされている。
高いアルコール検知値、運転操作が適切にできないほど酔っていたとの認定、約11.5キロメートルの走行認定は、どのように整合するのか。
道路状況、走行時間、運転経路、事故現場までの移動過程について、判決理由中で具体的に説明されているのか。
5 目撃情報は、どのように証拠化され、反対尋問の機会はあったのか
本件では、目撃情報が、検察官面前調書の中で、捜査結果として本人に示された情報として現れている。
しかし、少なくとも本判決書上、当該目撃者本人が公判廷で証言し、弁護人による反対尋問を受けた事実は確認できない。
目撃情報が運転者性、事故時刻、事故態様の認定に関係するのであれば、その情報がどのように証拠化され、どのように信用性を検証されたのかが問題となる。
判決は、目撃情報について、どの証拠に基づき、どの範囲で事実認定に用いたのかを十分に説明しているのか。
6 同僚市議の供述調書は、どの事実認定に使われたのか
本判決は、量刑上特に考慮した事情として、被告人が同僚市議らと飲食店で相当量の酒を飲んだことを認定している。
また、証拠の標目には、第三者の検察官に対する供述調書として甲6及び甲7が掲げられている。
前述の赤字注記のとおり、同僚市議の供述調書が、飲酒状況、運転に至る経過、被告人の認識、その他の事実認定にどのように使われたのか。
また、供述者が辞職勧告決議の賛成者でもあったという関係は、証拠評価及び刑事裁判の公正との関係でどのように検討されたのか。
7 市議会議員という地位は、不利な事情としてだけ扱われたのか
本判決は、被告人が現職の市議会議員という立場にあり、市民の代表として高い遵法精神が求められていたにもかかわらず、酒酔い運転という故意犯に及んだことを、強い非難に値するとしている。
また、須賀川市民に与えた衝撃と失望は軽視できないとしている。
このように、裁判所は、市議会議員という地位を量刑上不利な事情として扱っている。
一方で、同じ市議会から、判決前に第1回及び第2回辞職勧告決議が行われていた事実については、判決理由中で検討されていない。
市議会議員という地位を不利な量刑事情として使う一方で、その地位をめぐる議会からの判決前の公的圧力を検討していないことは、どのように評価されるのか。
8 判決は、判決前の辞職勧告決議をどのように扱ったのか
本件では、2011年(平成23年)10月26日に第1回辞職勧告決議が行われている。
これは、起訴前、勾留中、本人欠席の段階で行われたものである。
また、2011年(平成23年)12月1日には第2回辞職勧告決議が行われている。
これは、初公判前、判決前、本人退場後に行われたものである。
しかし、本判決の理由中には、これらの辞職勧告決議が刑事裁判の公正、無罪推定、又は被告人の供述形成に与えた影響について検討した記載は確認できない。
公的機関である市議会が、判決前に辞職勧告決議を行っていた事実を、裁判所はどのように把握し、どのように評価したのか。
9 裁判所は、公的機関による判決前の有罪視を検討しなくてよかったのか
自由権規約第14条第2項は、刑事上の罪に問われている者が、法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定される権利を保障している。
また、公的機関が判決前に有罪を前提とするような発言や行為をすることは、無罪推定との関係で問題となり得る。
本件では、判決前に第1回及び第2回辞職勧告決議が行われている。
本判決が、これらの事情を理由中で検討していないことは、刑事裁判の公正及び無罪推定との関係でどのように評価されるのか。
10 判決は、執行猶予付き判決であることをどのように位置付けているのか
本判決は、懲役1年に処するとしつつ、裁判確定の日から3年間、その刑の執行を猶予するとしている。
また、量刑理由では、被告人に不利な事情と有利な事情を総合的に考慮し、今回に限っては刑の執行を猶予することが相当であるとしている。
したがって、本判決は、直ちに刑務所で服役する実刑判決ではなく、執行猶予付きの有罪判決である。
この点は、第3回辞職勧告決議で、執行猶予付き判決を「実刑判決」と表現していたことを検証する上でも重要である。
関連法規・条約・国際法上の基準
国内法
日本国憲法第31条: 適正手続の保障との関係が問題となる。刑事裁判に至る過程において、身柄拘束、取調べ、供述形成、報道及び議会決議がどのように関係したのかを検証する必要がある。
日本国憲法第37条: 公平な裁判所による迅速な公開裁判を受ける権利との関係が問題となる。判決前に公的機関である市議会が辞職勧告決議を行っていた状況下で、刑事裁判の公正がどのように確保されていたのかを検討する必要がある。
日本国憲法第76条第3項: 裁判官の独立との関係が問題となる。裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、憲法及び法律にのみ拘束される。本件では、判決前に市議会による辞職勧告決議及び報道が存在した中で、裁判所がそれらの外部状況をどのように扱ったのかが問題となる。
日本国憲法第99条: 裁判官、地方議会議員その他の公務員が負う憲法尊重擁護義務との関係が問題となる。公的機関が、判決前に有罪を前提とするような意思表示を行っていた場合、裁判所及び議会が憲法上の義務をどのように果たしたのかが問題となる。
刑事訴訟法第336条: 被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪を言い渡さなければならないとする規定との関係が問題となる。無罪推定のもとで、判決前の段階における公的機関の有罪視が、刑事裁判の証明構造とどのように関係するのかを検討する必要がある。
国際人権条約 自由権規約(ICCPR)
自由権規約第14条第1項: 公正な裁判を受ける権利との関係が問題となる。判決前に公的機関である市議会が辞職勧告決議を行っていた状況が、刑事裁判の公正にどのように影響し得るのかを検討する必要がある。
自由権規約第14条第2項: 無罪推定との関係が問題となる。刑事上の罪に問われている者は、法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定される。本件では、判決前に第1回及び第2回辞職勧告決議が行われていたことが、この規定との関係で問題となる。
自由権規約第2条第3項: 実効的救済との関係が問題となる。無罪推定や公正な裁判との関係で問題が生じた場合に、国内制度において実効的な救済が与えられたのかを検討する必要がある。
条約の履行及び解釈に関する基準
条約法に関するウィーン条約(VCLT)第26条: 効力を有する条約は当事国を拘束し、誠実に履行されなければならない。日本が批准した自由権規約を誠実に履行すべき義務との関係が問題となる。
条約法に関するウィーン条約(VCLT)第27条: 国内法を理由として、条約上の義務を履行しないことを正当化できない。国内制度上、地方議会の辞職勧告決議が法的拘束力を持たない意思表示と説明されるとしても、それを理由に自由権規約上の問題を検討しなくてよいことになるのかが問題となる。
※各規定の詳しい解釈、本件への適用及び相互関係については、法的主張と違憲違法構造の整理で検討する。
本件との関係
本資料は、本件刑事裁判において、裁判所がどのような事実を認定し、どのような証拠に基づき、どのような量刑判断をしたのかを示す中心資料である。
本判決は、被告人を懲役1年に処し、裁判確定の日から3年間、その刑の執行を猶予するとしている。
したがって、本判決は、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決である。
ここでまず確認すべきことは、判決前に公的機関が有罪を前提とするような意思表示を行ったこと自体が、自由権規約第14条第2項に抵触する問題として独立して成立するという点である。
影響の有無は、この問題とは別の次元で、追加的に検証されるべき事項である。
つまり、本件で問われるのは、辞職勧告決議が判決結果や量刑判断に現実に影響したかどうかだけではない。
公的機関である市議会が、判決前の段階で、有罪を前提とするような公的意思表示を行ったこと自体が、無罪推定との関係で問題となる。
本件では、2011年(平成23年)10月26日に第1回辞職勧告決議が行われている。
これは、起訴前、勾留中、本人欠席の段階で行われた。
また、2011年(平成23年)12月1日には第2回辞職勧告決議が行われている。
これは、初公判前、判決前、本人退場後に行われた。
その後、2011年(平成23年)12月26日に初公判が開かれ、2012年(平成24年)1月16日に本判決が宣告されている。
つまり、本判決は、すでに第1回及び第2回辞職勧告決議が行われた後に宣告されたものである。
本判決の理由中には、第1回及び第2回辞職勧告決議、報道、議会による辞職圧力、又は公的機関による判決前の有罪視が、刑事裁判の公正、無罪推定、又は供述形成に与えた影響について検討した記載は確認できない。
しかし、これは単に「影響があったかどうか」が不明であるというだけの問題ではない。
判決前の公的有罪視が存在した以上、裁判所がその状況をどのように把握し、どのように無罪推定及び公正な裁判の保障と整合させたのかが問題となる。
また、本判決は、市議会議員という地位を量刑上の重要な事情として扱っている。
判決は、被告人が現職の市議会議員という立場にあり、市民の代表として高い遵法精神が求められていたにもかかわらず、酒酔い運転という故意犯に及んだことは強い非難に値するとしている。
さらに、須賀川市民に与えた衝撃と失望は軽視できないとしている。
したがって、本判決は、被告人の市議会議員としての地位を、量刑上不利な事情として明確に考慮している。
一方で、同じ市議会議員という地位をめぐって、判決前に市議会が辞職勧告決議を行っていた事実については、判決理由中で検討されていない。
このことは、市議会議員という地位を理由に刑事責任を重く評価する一方で、市議会による判決前の公的有罪視又は辞職圧力については検討していないという構造を示している。
さらに重要なのは、証拠の標目に掲げられている第三者供述調書と、辞職勧告決議との関係である。
本判決の証拠の標目には、第三者の検察官に対する供述調書として甲6及び甲7が掲げられている。
前述の赤字注記のとおり、本判決は、量刑上特に考慮した事情として、被告人が同僚市議らと飲食店で相当量の酒を飲んだことを認定している。
また、市議会議員という地位を重く評価し、須賀川市民に与えた衝撃と失望は軽視できないとしている。
ここで問題となるのは、同僚市議の供述調書が、飲酒状況、運転に至る経過、被告人の認識、又は市議会議員としての地位に関する量刑判断に、どのように用いられたのかである。
さらに、仮に、辞職勧告決議に賛成した市議会議員の供述調書が、刑事判決の証拠標目に掲げられ、同時に、判決が「須賀川市民に与えた衝撃と失望」を量刑上考慮しているのであれば、辞職勧告決議によって形成又は拡大された社会的評価が、量刑判断の前提に接続した可能性についても検証する必要がある。
ただし、この点は、無罪推定の問題を「実際に量刑へ影響したかどうか」という影響論に限定する趣旨ではない。
すでに述べたように、判決前に公的機関が有罪を前提とするような辞職勧告決議を行ったこと自体が、自由権規約第14条第2項に抵触する問題として独立して成立する。
その上で、証拠構造、供述形成、社会的評価及び量刑判断にどのように接続したのかを、追加的に検証する必要がある。
もちろん、本判決書だけから、甲6及び甲7がどの具体的事実の認定にどの程度使われたのか、また辞職勧告決議による社会的評価が量刑判断に直接取り込まれたのかを断定することはできない。
しかし、本判決書は、その可能性を検証すべき証拠構造を示している。
すなわち、同僚市議の供述調書が証拠標目に掲げられていること。
その同僚市議が辞職勧告決議の賛成者でもあったとされること。
判決が市議会議員という地位を量刑上不利に評価していること。
判決が須賀川市民に与えた衝撃と失望を軽視できないとしていること。
そして、判決前に市議会が第1回及び第2回辞職勧告決議を行っていたこと。
これらの事情は、個別に切り離して見るのではなく、無罪推定、公正な裁判、証拠構造、社会的評価の形成、量刑判断との関係で、相互に関連するものとして検証する必要がある。
さらに、本判決は、事故又は運転の時刻について、午後7時40分頃という時刻を採用している。
本件では、逮捕段階や一部資料では午後7時50分頃という扱いが確認されているため、事故時刻又は運転時刻がどのように変更され、どの証拠に基づいて判決に採用されたのかを、供述調書、実況見分調書、起訴状等とあわせて検証する必要がある。
加えて、本判決は、被告人が公判廷で事実を素直に認め、反省の態度を示していることを、有利な情状として評価している。
しかし、本件では、逮捕直後の否認報道、取調べ、検察官面前調書、公判廷供述に至るまでの供述の変遷が問題となる。
したがって、公判廷での自白又は認める供述が、どのような経過の中で形成されたのかを検証する必要がある。
本資料は、判決内容そのものを示す資料であると同時に、第1回及び第2回辞職勧告決議後に宣告された判決として、判決前の公的有罪視、無罪推定、刑事裁判の公正、供述形成、事故時刻変更、第三者供述調書の位置付け、社会的評価の量刑への接続、及び市議会議員という地位の量刑上の扱いを検証するための基礎資料である。
関連資料
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関連する規範記事:
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関連する時系列:
2011年(平成23年)10月18日 本件事故が発生したとされた。
2011年(平成23年)10月19日 圓谷年雄が警察署に任意出頭した後、逮捕状に基づいて通常逮捕され勾留開始。現行犯逮捕ではなかった。
2011年(平成23年)10月24日 第1回辞職勧告決議前の議会運営委員会
2011年(平成23年)10月26日 第1回辞職勧告決議
2011年(平成23年)11月9日 起訴され、その後保釈された。
2011年(平成23年)11月28日 第2回辞職勧告決議前の議会運営委員会
2011年(平成23年)12月1日 第2回辞職勧告決議
2012年(平成24年)1月16日 有罪判決
2012年(平成24年)1月31日 判決確定
2012年(平成24年)2月7日 第3回辞職勧告決議前の議会運営委員会
2012年(平成24年)2月9日 第3回辞職勧告決議
2012年(平成24年)2月27日 第4回辞職勧告決議前の議会運営委員会
2012年(平成24年)3月1日 第4回辞職勧告決議
