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見解篇―自由権規約委員会・Berezhnaya and Gershankova v. Belarus:捜査当局による情報提供と無罪推定

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「見解(Views)」とは何か

市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)は、生命に対する権利、身体の自由、公正な裁判を受ける権利、無罪推定、表現の自由など、市民的・政治的権利を保障する国際条約である。

自由権規約委員会(Human Rights Committee)は、ICCPRによって設置された独立した専門家からなる委員会であり、締約国によるICCPRの実施状況を監視する役割を担っている。

ICCPRには、これとは別に「自由権規約第一選択議定書」がある。

第一選択議定書の締約国は、自国の管轄下にある個人から、「ICCPRによって保障された権利を侵害された」とする通報を自由権規約委員会が受理し、審理する権限を認める。

この手続は、一般に「個人通報制度」と呼ばれる。

個人から通報が提出され、受理可能性や当事者双方から提出された情報を委員会が検討した後、個別事件についてICCPR違反があったかどうかなどを示した判断が、「見解(Views)」である。

「見解」という日本語だけを見ると、単なる意見や参考コメントのようにも見えるが、自由権規約委員会自身は、その性質をそのようには説明していない。

一般的意見33号11項は、個人通報を審理する自由権規約委員会の機能自体は司法機関としてのものではないとしながら、第一選択議定書に基づいて出される見解には、委員の公平性及び独立性、ICCPRの文言についての慎重な解釈、判断としての確定的性質など、司法判断の主要な特徴の一部が備わっているとしている。

さらに、一般的意見33号12項は、第一選択議定書第5条第4項で委員会の判断を表すために用いられている用語が「Views」であり、その判断では、通報者が主張した権利侵害について委員会の認定が示され、違反が認定された場合には、その違反に対する救済も示されるとしている。

同13項は、見解について、ICCPRそのものによって設置され、その解釈を担う機関による権威ある判断(authoritative determination)であると位置付けている。

したがって、本記事でいう「見解」は、日本の裁判所による「判決」ではない一方、単なる研究者の意見や国連機関による一般的な声明とも異なる。

ICCPR上の権利が個別具体的な事実関係においてどのように適用されるのかを、自由権規約委員会が個人通報手続を通じて判断した文書である。

日本との関係

日本はICCPRを1979年(昭和54年)6月21日に批准し、同年9月21日に日本について効力が生じている。

そのため、日本もICCPRの締約国であり、ICCPR上の権利を保障する条約上の義務を負っている。

一方、日本は現在、自由権規約第一選択議定書を受諾していない。このため、日本を相手方として個人が自由権規約委員会に通報し、その事件について見解を求める個人通報制度は利用できない。

このことと、ICCPRそのものが日本に適用されることとは別の問題である。

また、他国について示された自由権規約委員会の見解が、そのまま日本の個別事件についての判断になるわけでもない。

本サイトでは、これらの見解を、日本について直接下された判決や決定として扱うのではなく、ICCPRの各条項について、同規約によって設置された自由権規約委員会が、具体的な事実に対してどのような解釈と適用を行っているのかを確認するための比較資料として取り上げる。

今回のBerezhnaya and Gershankova v. Belarusも、その一例である。

この見解を通じて、自由権規約第14条第2項が保障する無罪推定について、自由権規約委員会が「すべての公的機関」にどのような義務を求め、具体的な行為をどのように評価しているのかを確認する。

見解の概要

事件名:
Berezhnaya and Gershankova v. Belarus

通報番号:
No. 3196/2018及びNo. 3209/2018

文書番号:
CCPR/C/140/D/3196/2018
CCPR/C/140/D/3209/2018

採択主体:
国際連合自由権規約委員会
United Nations Human Rights Committee

見解採択日:
2024年3月21日

当事国:
ベラルーシ

対象規定:
市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)第6条、第9条第3項、第14条第2項

本記事で扱う主な論点:
捜査当局から提供された写真・映像を用いたメディア報道、公判中の被告人の取扱い、公的機関による有罪の予断と無罪推定との関係

文書の種類:
自由権規約第一選択議定書第5条第4項に基づく自由権規約委員会の見解

確認方法:
国際連合が公開する公式文書により確認

掲載形式:
事案及び委員会の判断を要約し、本件との比較上重要な部分のみを限定的に引用する。あわせて、関連する一般的意見及び先行する自由権規約委員会の見解との関係を整理する。

原文資料:
国際連合公式文書
CCPR/C/140/D/3196/2018
CCPR/C/140/D/3209/2018


この見解で確認できる事実

本件は、Natalya Berezhnaya及びLyudmila Gershankovaが、それぞれの息子であるSemyon Berezhnoi及びIgor Gershankovについて、自由権規約上の権利が侵害されたとして申し立てた二つの個人通報を、自由権規約委員会が併合して審理したものである。

Semyon Berezhnoi及びIgor Gershankovは、殺人、殺人未遂、強盗、詐欺等について有罪とされ、2017年7月21日、Mahiliou Regional Courtにおいて死刑判決を受けた。その後、上訴、監督審査請求及び恩赦請求が行われたが、死刑判決は維持された。

自由権規約委員会は、二つの通報について事実関係及び法的問題に実質的な共通性があるとして、2024年3月21日に併合して判断した。

無罪推定との関係では、申立人らは主として次の事情を主張した。

  • 被告人らが公判及び上訴審において金属製の檻に入れられ、手錠をされた状態で置かれていたこと
  • 死刑囚であることを示す表示の付された刑務所服を着用させられていたこと
  • 上訴審への移送時に、死刑判決を受けた者に特有とされる屈辱的な姿勢を取らされたこと
  • 捜査当局から入手した写真及び映像を複数のメディアが放送し、被告人らを犯罪の「perpetrators」と表現したこと
  • これらの報道によって被告人らに不利な世論が形成され、弁護士を確保する上でも問題が生じたと主張されたこと

委員会は、第6条、第9条第3項及び第14条第2項に関する主張について、本案審理を行うために十分な根拠が示されているとして受理した。


重要な判断

無罪推定と「すべての公的機関」

自由権規約委員会は8.3項において、第14条第2項が保障する無罪推定について、一般的意見32号30項を参照した。

委員会は、無罪推定が人権保護の基本的保障であり、有罪が合理的疑いを超えて証明されるまでは有罪を推定してはならず、疑いについては被告人の利益に扱い、被告人を無罪推定の原則に従って取り扱わなければならないとの基準を確認している。

そのうえで、捜査当局からメディアへ提供された写真及び映像と、それらを用いた報道について検討した。

委員会は、先行する Brewer-Carías v. Bolivarian Republic of Venezuela 9.4項を引用し、次の原則を確認している。

“it is a duty for all public authorities to refrain from prejudging the outcome of a trial”

すなわち、裁判の結果を予断することを控える義務は、「すべての公的機関」に課されるというものである。

この判断は、無罪推定を裁判官による証拠評価だけの問題として扱うものではなく、公的機関による刑事裁判確定前の有罪の予断も、第14条第2項との関係で問題となり得ることを示している。

捜査当局から提供された情報とメディア報道

本見解で問題とされたのは、報道機関自身の表現だけではない。

委員会が8.3項で明示的に取り上げたのは、捜査当局からメディアに提供された写真及び映像であり、それらを用いた報道において被告人らが犯罪の「perpetrators」と表現されたことである。

したがって、本見解を、私人である報道機関による表現だけについて無罪推定違反を認定した事例と理解することは適切ではない。

公的な捜査当局による情報提供を含む一連の事情が、第14条第2項との関係で検討されている。

第14条第2項違反の認定

委員会は、提出された情報及び当事国からこれを覆す十分な情報又は反論が示されなかったことを踏まえ、被告人らについて、第14条第2項が保障する無罪推定を受ける権利が侵害されたと判断した。

したがって、本見解では、無罪推定が抽象的な理念として言及されたにとどまらず、個別事件について第14条第2項違反が明示的に認定されている。

無罪推定違反と死刑判決との関係

さらに重要なのが8.4項である。

委員会は、死刑を科す刑事手続において第14条が保障する公正な裁判の保障に違反した場合、その死刑判決は恣意的なものとなり、第6条にも違反するとの従来の立場を確認した。

そのうえで、本件について第14条第2項違反を認定したことを踏まえ、死刑判決及びその後の執行について、第6条が保障する生命に対する権利の侵害も認定した。

この判断は、少なくとも本件において、無罪推定違反が単なる形式的な問題として処理されていないことを示している。


この見解から生じる疑問

本見解は、無罪推定の保障範囲について、いくつかの重要な問いを生じさせる。

第14条第2項について、「すべての公的機関」が裁判結果を予断してはならないのであれば、その義務を負う公的機関を裁判所、検察官又は警察だけに限定することができるのか。

また、公的機関が刑事裁判の確定前に、対象者が犯罪を行ったことを前提とする評価、表明又は取扱いを行った場合、刑事裁判そのものに具体的な影響が生じたことまで立証されなければ、第14条第2項の問題は生じないといえるのか。

さらに、刑事裁判の確定前に公的機関による有罪の予断があった場合、その後に有罪判決が確定することによって、それ以前の行為に関する無罪推定上の問題まで遡って解消されるのか。

本見解は、少なくとも、無罪推定の保障を刑事裁判所内部の証拠評価だけに限定して理解することができないことを示している。


関連法規・条約・国際法上の基準

市民的及び政治的権利に関する国際規約第14条第2項

刑事上の罪に問われているすべての者について、法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定される権利を保障する。

自由権規約委員会一般的意見32号30項

無罪推定を人権保護の基本的保障と位置付け、すべての公的機関に対して、裁判結果を予断することを控える義務があることを示している。

Brewer-Carías v. Bolivarian Republic of Venezuela

CCPR/C/133/D/3003/2017。

本見解8.3項が直接引用する先行見解であり、公的機関による有罪の予断と第14条第2項との関係を検討する上で重要である。

市民的及び政治的権利に関する国際規約第2条第3項

本見解10項では、第14条第2項等の違反認定を受け、当事国に実効的救済を提供する義務があることが確認されている。


本件との関係

本件では、2011年(平成23年)10月26日、本人が逮捕・勾留され、刑事裁判による有罪判決が存在しない段階で、須賀川市議会による第1回辞職勧告決議が行われた。

さらに、2011年(平成23年)12月1日には、初公判前の段階で第2回辞職勧告決議が行われている。

Berezhnaya and Gershankova事件と本件では、当事国、問題となった公的機関、具体的な行為、刑事事件の内容及び法的効果が異なる。また、本見解はベラルーシを当事国とする個別通報についての判断であり、日本又は本件について直接判断したものではない。

したがって、本見解における個別事件の結論を、そのまま本件に当てはめることはできない。

一方、比較上重要なのは、自由権規約委員会が第14条第2項について、裁判所だけではなく、「すべての公的機関」が裁判結果を予断してはならないとの原則を適用している点である。

本件では、地方議会である須賀川市議会が、刑事裁判による有罪判断が存在しない段階で辞職勧告決議を行っている。

そこで、本件については、

  • 辞職勧告決議がどのような事実認識を前提としていたのか
  • 本人を犯罪行為を行った者として扱う内容を含んでいたのか
  • 刑事裁判の結果を待つことなく、公的な評価を行う性質を有していたのか
  • そのような行為が、第14条第2項について自由権規約委員会が示す「すべての公的機関」による裁判結果の予断禁止と両立するのか

を検証する必要がある。

また、本見解では、第14条第2項違反が認定された後、その違反が、最終的に有罪とされたことを理由として消滅したものとは扱われていない。

むしろ委員会は、第14条第2項違反を独立した条約違反として認定し、さらに本件が死刑事件であったことを前提として、その違反を第6条違反の判断にも接続している。

この点は、有罪判決が存在することによって、それ以前に行われた公的機関の行為に関する無罪推定上の問題が当然に解消されるのかを検討する上でも、重要な比較資料となる。


関連資料

見解篇―自由権規約委員会・Gridin v. Russian Federation:法執行機関による犯人視と無罪推定(2000)

見解篇―自由権規約委員会・Cedeño v. Bolivarian Republic of Venezuela:大統領による犯人視と無罪推定(2012)

見解篇―自由権規約委員会・Kh.B. v. Kyrgyzstan:議会決議の刑事裁判への影響と無罪推定(2017)

見解篇―自由権規約委員会・Orkin v. Russian Federation:裁判所ウェブサイトの有罪表明と無罪推定(2019)

見解篇―自由権規約委員会・Khudayberdiev v. Kyrgyzstan:議会決議と無罪推定(2019)

見解篇―自由権規約委員会・Brewer-Carías v. Bolivarian Republic of Venezuela:公的機関による有罪の予断と無罪推定(2021)

見解篇―自由権規約委員会・Berezhnaya and Gershankova v. Belarus:捜査当局による情報提供と無罪推定(2024)本記事

()内の数字は、国際連合自由権規約委員会による採択年。

English version:

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