資料の概要
資料名:
人権侵害救済申立て並びに法的根拠の照会及び是正措置申入書について(回答)
文書番号:
8生環第102号
作成日:
2026年(令和8年)5月20日
作成主体:
須賀川市
発出者:
須賀川市長 大寺正晃
宛先:
圓谷年雄
対象となる申入書:
2026年(令和8年)5月8日付「人権侵害救済申立て並びに法的根拠の照会及び是正措置申入書」
取得経路:
圓谷年雄宛てに送付された回答文書として取得
資料の種類:
人権侵害救済申立て、法的根拠の照会及び是正措置申入書に対する須賀川市長名の回答文書
掲載形式:
個人情報等を必要な範囲で非公開処理したPDF
原文PDF:
Skip to PDF contentこの資料で確認できる事実
本資料は、2026年(令和8年)5月8日付で須賀川市長に提出された「人権侵害救済申立て並びに法的根拠の照会及び是正措置申入書」に対し、同月20日、須賀川市長名で発出された回答文書である。
文書番号は「8生環第102号」である。
文書の表題は、
人権侵害救済申立て並びに法的根拠の照会及び是正措置申入書について(回答)
である。
回答本文は、次の二文で構成されている。
令和8年5月8日付けで提出のありました人権侵害救済申立てについては、法務局が受付窓口となります。
また、法的根拠の照会及び是正措置申入書については、令和8年4月23日付け8生環第59号で回答したとおりです。
事務担当は、須賀川市生活環境課市民活動支援係と記載されている。
本回答は、5月8日付文書を、「人権侵害救済申立て」と「法的根拠の照会及び是正措置申入書」の二つに分けて取り扱っている。
前者については、「法務局が受付窓口となります」と回答している。
しかし、本回答には、どの法務局又はどの部署を指すのか、どのような手続によって申立てを行うのか、須賀川市が申立書を法務局へ送付又は引継ぎしたのか、圓谷年雄が改めて法務局へ申立てを行う必要があるのかは記載されていない。
また、法務局が受付窓口であることを理由として、須賀川市自身が人権侵害の有無、市の従前の対応又は市の権限内で可能な是正措置について調査及び判断を行わないとしたのか、その法的根拠も記載されていない。
後者である「法的根拠の照会及び是正措置申入書」については、2026年(令和8年)4月23日付8生環第59号で回答したとおりであるとしている。
4月23日付回答では、
現在係争中の事件に関連する内容であるため、弁護士に一任しております。
と回答されていた。
したがって、本回答からは、須賀川市が、5月8日付申入書によって新たな法的根拠及び具体的な照会事項が示された後も、法的根拠の照会及び是正措置申入れについて、4月23日付回答の処理方針を維持したことを確認できる。
本回答の対象となった5月8日付申入書は、地方自治法第138条の2の2、日本国憲法第31条、第98条第2項及び第99条、自由権規約(ICCPR)第2条第3項及び第14条第2項、一般的意見31号15項ないし17項、一般的意見32号30項並びに条約法に関するウィーン条約(VCLT)第27条を具体的に示していた。
同申入書では、須賀川市の執行機関が、地方自治法第138条の2の2に基づき、自らの判断と責任において事務を誠実に管理し、執行する義務を負うことが指摘されていた。
その上で、弁護士への相談又は委任によって、須賀川市長及び市の執行機関自身の判断及び責任が消滅するものではないとして、その具体的な法的根拠及び実体的判断が求められていた。
また、当時係属していた住民訴訟は財務会計上の違法を争うものである一方、5月8日付申入書は、辞職勧告決議による無罪推定侵害、市の従前の対応及び実効的救済の不提供を対象とするため、両者の対象及び目的は異なるとの主張が示されていた。
さらに、2025年(令和7年)4月19日の弁護士相談において示された、
逮捕されているため、有罪に近い推定がなされても問題ない
との趣旨の解釈を、須賀川市が現在も維持しているのかが独立した照会事項として問われていた。
5月8日付申入書には、須賀川市長に回答を求める6項目の照会事項及び5項目の申入事項が記載されていた。
6項目の照会事項では、住民訴訟が係争中であることを理由として実体判断を示さない法的根拠、弁護士への一任と地方自治法第138条の2の2との関係、2025年4月19日の弁護士相談における解釈を現在も維持しているか否か、その解釈と無罪推定等との整合性、調査及び救済措置を講じる意思の有無並びに市の従前の対応と誠実管理執行義務との整合性が問われていた。
5項目の申入事項では、一連の辞職勧告決議と無罪推定との関係の調査、自由権規約第2条第3項に基づく救済義務との関係の明確化、人権侵害の有無に関する実体的判断、名誉回復、公的謝罪、再発防止その他必要な是正措置並びにこれらを行わない場合の具体的な法的根拠の明示が求められていた。
5月8日付申入書は、須賀川市長に対し、受領後14日以内に照会事項について書面で回答し、必要な是正措置を講じるよう求めていた。
本回答は、申入書が提出された5月8日から12日後の5月20日付で発出されている。
したがって、文書の日付上は、申入書が求めた受領後14日以内という期間内に回答されたことを確認できる。
一方、本回答には、6項目の照会事項に対する個別の回答は記載されていない。
5項目の申入事項について、受け入れるのか、拒否するのか、継続して検討するのかも記載されていない。
地方自治法第138条の2の2との関係について、須賀川市長又は市の執行機関が、自らの判断と責任に基づき、どのような事実認定、法的評価又は行政上の判断を行ったのかも記載されていない。
2025年4月19日の弁護士相談における解釈を、須賀川市が現在も維持しているのかについても回答していない。
また、自由権規約第2条第3項に基づく調査及び救済の確保、同第14条第2項に基づく無罪推定並びに一般的意見31号及び32号との関係についても、実体的な判断は記載されていない。
本回答は、「人権侵害救済申立て」について法務局を受付窓口と案内している。
しかし、本回答自体からは、須賀川市が法務局に申立書を送付したこと、法務局が申立てを受理したこと、法務局が人権侵害の有無について調査又は判断を開始したことは確認できない。
また、法務局への案内によって、須賀川市が保有する資料、市自身が行った法律相談、市の従前の回答及び市の行政上の対応について、須賀川市が調査又は再検証を行ったことも確認できない。
重要な記載
本資料の中心的な記載は、次の二つである。
人権侵害救済申立てについては、法務局が受付窓口となります。
法的根拠の照会及び是正措置申入書については、令和8年4月23日付け8生環第59号で回答したとおりです。
第一の記載は、須賀川市が、人権侵害救済申立てについて法務局を受付窓口として案内したことを示している。
法務局における人権救済手続を案内すること自体は、人権侵害を主張する者に対し、他の利用可能な制度を知らせる対応として一定の意味を持ち得る。
しかし、他の機関又は制度を案内することと、須賀川市自身が、自ら保有する資料、市が実施した法律相談、市自身の従前の回答及び市の権限内で可能な是正措置について調査及び判断することとは同一ではない。
本件で問題とされていたのは、須賀川市議会による一連の辞職勧告決議だけではない。
須賀川市が2025年(令和7年)の是正要求に対し「適正に処理した」と回答したこと、2025年(令和7年)4月19日の弁護士相談において「逮捕されているため、有罪に近い推定がなされても問題ない」との趣旨の解釈が示されたこと、並びにその後も市が人権侵害及び救済の要否について実体的判断を示していないことも検証対象とされていた。
したがって、法務局が人権侵害救済申立ての受付窓口であるとの説明だけでは、須賀川市自身の事務処理及び公的判断について、市がどのような調査及び再検証を行ったのかは明らかにならない。
また、本回答には、法務局への案内が、単なる情報提供なのか、申立ての移送又は引継ぎなのか、須賀川市が自らに権限がないと判断した結果なのかも記載されていない。
自由権規約第2条第3項は、申立てを受けたすべての機関が、法令上の権限を超えて、申立人が求めるすべての救済措置を自ら実施することを求めるものではない。
しかし、同項は、規約上の権利又は自由を侵害された者に効果的な救済措置を確保し、その権利が権限ある司法上、行政上若しくは立法上の機関又はその他の権限ある機関によって決定され、認められた救済措置が執行されることを確保するよう求めている。
したがって、須賀川市が人権侵害救済申立てについて法務局を案内するのであれば、少なくとも、法務局がどの事項をどの権限によって取り扱うのか、市自身が判断する事項と法務局による判断を求める事項をどのように区別したのか、実際に権限ある機関による決定へ接続されたのかが問題となる。
受付窓口の案内だけで、その後、いずれの権限ある機関も侵害の有無及び救済の要否について実体的な判断を行わないのであれば、自由権規約第2条第3項が求める効果的救済及び権利の決定は、実質的に実現されないことになる。
第二の記載は、法的根拠の照会及び是正措置申入れについて、4月23日付回答を維持したことを示している。
4月23日付回答は、現在係争中の事件に関連するため、弁護士に一任しているとの一文で構成されていた。
これに対して5月8日付申入書は、地方自治法第138条の2の2を具体的に示し、弁護士への相談又は委任と、須賀川市長及び市の執行機関が自らの判断と責任に基づいて公的判断を行うこととは別であると指摘した。
また、住民訴訟と人権侵害救済申立てとは対象及び目的を異にすること、並びに係争中であることを理由として人権侵害及び救済の要否について実体判断を行わないのであれば、その具体的な法的根拠を示す必要があると指摘していた。
それにもかかわらず、本回答は、これらの指摘について新たな説明を加えず、4月23日付回答のとおりであるとするにとどまっている。
本回答は、「法的根拠の照会を拒否する」と明示したものではない。
また、「自由権規約上の人権侵害は存在しない」「須賀川市に調査又は救済に関する責任はない」「2025年4月19日の解釈を現在も維持する」との実体的判断を示したものでもない。
そのため、本回答を、明示された法的理由に基づく救済要求の実体的否定と直ちに評価することはできない。
一方、6項目の照会事項及び5項目の申入事項について個別の判断が示されていない以上、圓谷年雄が求めた具体的な法的疑問が、本回答によって解消されたともいえない。
本回答の重要性は、須賀川市が、統合された一つの申入書について、人権侵害救済申立ては法務局を案内し、法的根拠の照会及び是正措置申入れには従前回答を維持するという、二つの異なる処理を示した点にある。
しかし、人権侵害救済申立てと法的根拠の照会及び是正措置申入れは、相互に無関係なものではない。
5月8日付申入書では、人権侵害の有無、その法的評価、調査及び救済義務、是正措置並びにこれらを講じない法的根拠が、一体的な問題として示されていた。
特に、照会事項第3項及び第4項では、2025年(令和7年)4月19日の弁護士相談において示された、
逮捕されているため、有罪に近い推定がなされても問題ない
との趣旨の解釈を、須賀川市が現在も維持しているのかが問われ、その解釈を維持する場合には、自由権規約第14条第2項、一般的意見32号30項、日本国憲法第98条第2項及びVCLT第27条との整合性を明らかにするよう求められていた。
この照会は、人権侵害の一般的な存否を法務局に判断させることだけを求めたものではない。
須賀川市が実施した弁護士相談における解釈を、市が現在も公式な判断又は行政上の前提として維持しているのかという、須賀川市自身の意思形成及び公的見解に関する質問である。
法務局が人権侵害救済手続の受付窓口であるとしても、須賀川市が当該解釈を現在も維持しているのかという市自身の公式見解を、法務局が須賀川市に代わって表明することはできない。
また、当該解釈が市の従前の回答又は是正要求への対応に影響したのか、市がその影響を再検証したのかという事実も、須賀川市が保有する資料及び内部の意思形成過程と直接関係する。
したがって、人権侵害の有無については法務局を案内する一方、当該人権侵害の実体的評価に直結する2025年4月19日の解釈に関する照会については、4月23日付回答を維持して実体的な回答を示さないとすれば、処理の切り分け自体に問題が生じる。
法務局が人権侵害の申立てを受け付けても、須賀川市が当該解釈を現在も維持しているのか、どのような理由で従前の対応を行ったのかを明らかにしなければ、法務局による調査に必要な中核的事実が不明のまま残る可能性がある。
一方、須賀川市が、当該事項は人権侵害救済申立てとして法務局が取り扱うべき問題であるとして、自ら実体的な回答を行わないのであれば、須賀川市と法務局のいずれも、市の公式見解及び内部意思形成について実体的判断を示さない空白が生じ得る。
すなわち、本回答による二分割処理は、人権侵害の存否を判断する上で不可欠な事実及び法的評価について、どの機関が調査し、どの機関が回答し、どの機関が救済の要否を決定するのかを不明確にする可能性がある。
人権侵害の有無については法務局を案内する一方で、市自身の法的根拠及び是正措置については従前回答を維持する場合、誰が、どの範囲について、人権侵害の有無及び救済の要否を実体的に判断するのかが明らかにされる必要がある。
地方自治法第138条の2の2は、須賀川市長に法令上存在しない権限を新たに付与するものではない。
須賀川市長が、須賀川市議会の決議を自らの判断だけで撤回する権限を当然に有するとはいえない。
しかし、市長が議会決議を直接撤回する権限を有しないことと、須賀川市として、市が保有する資料、市が実施した法律相談、市の従前の回答及び市自身の行政上の対応について、何らの調査、説明又は判断も行わなくてよいこととは同一ではない。
本件では、須賀川市長及び市長部局が、自らの権限内で判断できる事項と、法務局、須賀川市議会、裁判所その他の機関による判断を要する事項とを、どのように区別したのかが問われる。
また、自らの権限外と判断した事項について、単に他の機関を案内するだけでなく、実際に権限ある機関による調査、権利の決定及び救済へ接続したのかが問われる。
本回答が5月8日付申入書の提出から14日以内に発出されたことは、回答時期の形式面において確認されるべき事実である。
しかし、期限内に回答文書を発出したことと、6項目の照会事項及び5項目の申入事項について実体的な判断並びに具体的な法的根拠を示したこととは別の問題である。
したがって、本資料を検証する際には、回答時期の形式面、法務局への案内及び従前回答の維持という処理内容、二分割処理によって生じ得る実体判断の空白、並びに権利侵害及び救済の要否に関する実体的判断の有無を、それぞれ区別する必要がある。
この資料から生じる疑問
1 「法務局が受付窓口」とする具体的な法的根拠及び手続は何か
本回答は、人権侵害救済申立てについて、法務局が受付窓口になると回答している。
しかし、どの法務局又はどの部署を指すのか、どの法令又は制度に基づくのか、どのような方法で申立てを行うのかは記載されていない。
須賀川市は、どの具体的な制度及び手続を案内したのかが問われる。
2 須賀川市は申立書を法務局へ送付又は引継ぎしたのか
本回答には、須賀川市が5月8日付申入書又はその内容を法務局へ送付したのかは記載されていない。
また、圓谷年雄が改めて法務局へ申立てを行う必要があるのかも示されていない。
法務局への案内が、単なる情報提供なのか、正式な移送又は引継ぎなのかが問われる。
3 法務局への案内によって、須賀川市自身の調査及び判断は不要になるのか
本件では、須賀川市議会の辞職勧告決議だけでなく、須賀川市が実施した弁護士相談、市の従前の回答及び市自身の行政上の対応も問題とされていた。
法務局が人権侵害救済申立ての受付窓口であることは、須賀川市自身の事務処理について、市が調査、説明及び再検証を行わない理由となるのか。
その具体的な法的根拠が問われる。
4 一体として提出された申入書を二つに分けて処理した理由は何か
5月8日付文書は、「人権侵害救済申立て」「法的根拠の照会」及び「是正措置申入れ」を一体として構成していた。
本回答は、人権侵害救済申立ては法務局、法的根拠の照会及び是正措置申入れは従前回答のとおりとして、異なる処理を示した。
相互に関連する侵害事実、法的評価及び救済要求を、どのような基準によって分けて処理したのかが問われる。
5 二分割処理によって、2025年4月19日の弁護士相談における解釈について実体的判断を行う機関が存在しない状態となっていないか
5月8日付申入書の照会事項第3項及び第4項では、2025年(令和7年)4月19日の弁護士相談における、
逮捕されているため、有罪に近い推定がなされても問題ない
との趣旨の解釈を、須賀川市が現在も維持しているのかが問われていた。
また、当該解釈を維持する場合には、自由権規約第14条第2項、一般的意見32号30項、日本国憲法第98条第2項及びVCLT第27条との整合性を明らかにするよう求めていた。
この照会は、須賀川市自身の公式見解及び内部意思形成に関するものであり、法務局が須賀川市に代わって回答できる事項ではない。
一方、本回答は、人権侵害救済申立てについて法務局を案内し、法的根拠の照会については4月23日付回答を維持するにとどまり、須賀川市が当該解釈を現在も維持しているのかを明らかにしていない。
その結果、法務局は須賀川市の公式見解を確定できず、須賀川市も法務局への案内及び従前回答を理由として実体的な回答を示さないという、判断の空白が生じていないかが問われる。
また、人権侵害の有無を判断する上で重要な中核的事実及び法的評価について、どの機関が調査し、回答し、救済の要否を決定するのかが問われる。
6 「4月23日付回答のとおり」とは、6項目の照会事項に対するどのような回答を意味するのか
5月8日付申入書には、6項目の具体的な照会事項が記載されていた。
しかし、本回答は各項目に個別に回答せず、4月23日付回答のとおりと記載している。
須賀川市は、各照会事項について回答を拒否したのか、係争中であるため判断しないとしたのか、弁護士による検討を継続しているとしたのかが明らかではない。
7 5項目の申入事項は、受諾、拒否又は継続検討のいずれとして処理されたのか
5月8日付申入書では、調査、実体的判断、名誉回復、公的謝罪、再発防止その他必要な是正措置が求められていた。
本回答には、各申入事項を受け入れるのか、拒否するのか、継続して検討するのかが記載されていない。
須賀川市は、それぞれをどのように処理したのかが問われる。
8 地方自治法第138条の2の2に基づき、須賀川市長はどのような判断を行ったのか
5月8日付申入書では、須賀川市長及び市の執行機関が、自らの判断と責任に基づいて事務を誠実に管理し、執行する義務との関係が具体的に問われていた。
須賀川市長は、弁護士の助言を踏まえ、事実関係、適用規範、市の権限、人権侵害の有無及び救済の必要性について、どのような公的判断を行ったのかが問われる。
9 2025年4月19日の弁護士相談における解釈を、須賀川市は現在も維持しているのか
5月8日付申入書は、
逮捕されているため、有罪に近い推定がなされても問題ない
との趣旨の解釈について、須賀川市が現在も維持しているのかを明らかにするよう求めていた。
本回答は、この照会に答えていない。
須賀川市が当該解釈を公式見解として採用しているのか、従前の意思形成に用いたのか、又は現在は維持していないのかが問われる。
10 自由権規約第2条第3項が求める権利及び救済の決定は、どの機関によって確保されるのか
須賀川市は、人権侵害救済申立てについて法務局を案内した。
一方、法的根拠の照会及び是正措置申入れについては、係争中であり、弁護士に一任しているとの従前回答を維持した。
この処理によって、法務局、須賀川市、須賀川市議会、裁判所その他の機関のうち、どの機関が、どの事項について、侵害の有無及び救済の要否を実体的に決定するのかが問われる。
また、須賀川市が法務局への案内を行っただけで、実際に法務局による調査及び権利の決定へ接続していない場合、自由権規約第2条第3項が求める実効的救済が確保されたといえるのかが問われる。
11 期限内に回答したことと、実体的な回答を行ったことは同一なのか
本回答は、5月8日付申入書の提出から14日以内に発出されている。
しかし、6項目の照会事項及び5項目の申入事項について、個別の実体的判断及び具体的な法的根拠は示されていない。
期限内に回答文書を発出し、法務局を案内し、従前回答を参照したことによって、自由権規約第2条第3項が求める実効的救済又は地方自治法第138条の2の2に基づく執行機関の責任が履行されたといえるのかが問われる。
関連法規・条約・国際法上の基準
国内法
日本国憲法第31条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科されないことを定める。
同条は無罪推定を明文で規定するものではないが、本件では、刑事責任未確定段階における公的有罪視及びその後の行政上の調査・救済手続の適正性との関係が問題とされている。
日本国憲法第98条第2項
日本国が締結した条約及び確立された国際法規を誠実に遵守することを定める。
本件では、自由権規約第2条第3項及び第14条第2項に基づく義務が、須賀川市、法務局、須賀川市議会その他の権限ある機関による調査、判断及び救済への接続を通じて、どのように誠実に履行されたのかが問題となる。
日本国憲法第99条
天皇又は摂政、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員に対し、憲法を尊重し擁護する義務を課している。
本件では、地方公共団体の長及び職員が、具体的な人権侵害の申立てを受けた後、自らの行政上の対応について憲法及び条約との適合性を検討し、必要な措置を講じたのかが問題となる。
地方自治法第138条の2の2
普通地方公共団体の執行機関が、条例、予算その他の議会の議決に基づく事務及び法令、規則その他の規程に基づく事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し、執行する義務を負うことを定める。
同条は、執行機関に法令上存在しない権限を新たに付与するものではない。
しかし、弁護士に助言又は訴訟対応を委ねたことや、他の機関を案内したことによって、執行機関自身が、その権限の範囲、事実認定、法的評価及び行政上の対応について判断しなくてよいことを定めた規定でもない。
本件では、須賀川市長が、法務局への案内及び弁護士への一任とは別に、自らの判断と責任に基づき、どのような公的判断を行ったのかが問題となる。
国際人権条約 自由権規約(ICCPR)
自由権規約第2条第3項
自由権規約上の権利又は自由を侵害された者に効果的な救済措置を確保すること、救済を求める者の権利が権限ある司法上、行政上若しくは立法上の機関又は国内法制上の他の権限ある機関によって決定されること、及び認められた救済措置が権限ある機関によって執行されることを求める。
同項は、申立てを受けた各機関が、法令上の権限を超えてすべての救済措置を実施することを求めるものではない。
本件では、須賀川市が法務局を案内することによって、実際に権限ある機関による調査、権利及び救済の決定並びに必要な救済措置の執行が確保されたのかが問題となる。
自由権規約第14条第2項
刑事上の罪に問われている者が、法律に基づいて有罪とされるまでは、無罪と推定される権利を保障する。
本件では、刑事責任未確定段階における須賀川市議会の一連の辞職勧告決議、2025年4月19日の弁護士相談における解釈及び須賀川市のその後の対応が、この保障とどのように関係するのかが問題となる。
自由権規約委員会一般的意見31号15項
自由権規約上の権利侵害の主張に対して、利用可能かつ実効的な救済制度を設け、迅速、徹底的及び実効的な調査を行う必要性を示している。
また、権利侵害の主張について調査を行わないこと自体が、自由権規約の別個の違反を生じさせ得ること及び継続する侵害の停止が実効的救済の重要な要素であることを示している。
本件では、須賀川市が人権侵害救済申立てを受領した後、自らの権限内でどのような調査を行い、法務局による調査へどのように接続したのかが問題となる。
自由権規約委員会一般的意見31号16項
自由権規約第2条第3項に基づく救済義務を履行するためには、権利を侵害された者に対する適切な回復措置が必要であることを示している。
回復措置には、事情に応じて、原状回復、リハビリテーション、公的謝罪その他の満足措置、再発防止の保証及び関連する法令又は実務の変更等が含まれ得る。
本件では、須賀川市の権限内で可能な名誉回復、公的説明、従前の回答の訂正その他の是正措置について、どのような検討が行われたのかが問題となる。
自由権規約委員会一般的意見31号17項
規約違反の再発を防止するため、被害者個人への救済を超えた措置が必要となり得ることを示している。
本件では、「逮捕されているため、有罪に近い推定がなされても問題ない」との趣旨の解釈を今後の行政実務で用いないため、須賀川市が法的確認体制、職員研修その他の再発防止措置を検討したのかが問題となる。
自由権規約委員会一般的意見32号30項
無罪推定が人権保護の基本原則であり、すべての公的機関が裁判の結果を予断することを差し控えなければならないことを示している。
本件では、須賀川市が2025年4月19日の弁護士相談における解釈を採用又は維持していたのか、並びにその解釈がこの基準と両立するのかが問題となる。
条約の履行及び解釈に関する基準
条約法に関するウィーン条約(VCLT)第27条
当事国は、条約を履行しないことの正当化として国内法を援用することができないと定める。
同条は、国内の各機関に法令上の権限を超えて行動することを求めるものではない。
本件では、国内の権限配分、法務局への案内、係争中であること、弁護士への委任又は行政内部の処理方針によって、権限ある機関による調査、権利及び救済の決定並びに認められた救済措置の執行が行われない状態を正当化できるのかが問題となる。
※各規定の詳しい解釈、本件への適用及び相互関係については、法的主張と違憲違法構造の整理で検討する。
本件との関係
圓谷年雄は、2025年(令和7年)、須賀川市に対し、一連の辞職勧告決議による人権侵害の検証及び是正を求める申入れを行った。
これに対し、須賀川市は、具体的な法的根拠を示すことなく、「適正に処理した」とする趣旨の回答を行った。
その後に取得された須賀川市の内部文書からは、2025年(令和7年)4月19日の弁護士相談において、
逮捕されているため、有罪に近い推定がなされても問題ない
との趣旨の解釈が示されていたことが確認された。
圓谷年雄は、2026年(令和8年)4月10日、須賀川市長及び須賀川市議会議長に対し、質問状兼申入書を提出した。
同文書では、一連の辞職勧告決議及びその後の公的対応について、自由権規約第14条第2項及び一般的意見32号30項との関係が示された。
また、自由権規約第2条第3項及び一般的意見31号に基づく実効的救済として、調査、法的判断、決議の撤回、公式記録の削除又は訂正、名誉回復及び公的な是正措置が求められた。
これに対し、須賀川市は、2026年(令和8年)4月23日付8生環第59号において、
現在係争中の事件に関連する内容であるため、弁護士に一任しております。
と回答した。
この回答を受け、圓谷年雄は、2026年(令和8年)5月8日、須賀川市長に対し、「人権侵害救済申立て並びに法的根拠の照会及び是正措置申入書」を提出した。
同申入書では、地方自治法第138条の2の2を具体的に示し、弁護士への相談又は係争事件への対応の委任と、須賀川市長及び市の執行機関が自らの判断と責任に基づいて公的判断を行うこととは別であると指摘した。
また、住民訴訟が財務会計上の違法を争うものであるのに対し、本申入書は、人権侵害、市の従前の対応、その後の是正拒否又は放置及び実効的救済の不提供を対象とするため、両者の対象及び目的は異なるとの立場を示した。
さらに、2025年4月19日の弁護士相談における解釈を須賀川市が現在も維持しているのか、無罪推定侵害の調査及び救済措置を講じる意思があるのか、措置を講じない場合の具体的な法的根拠は何かを、6項目の照会事項及び5項目の申入事項によって問うた。
これに対して発出されたのが、本資料である。
本資料は、申入書の提出から14日以内である2026年(令和8年)5月20日付で発出されている。
しかし、人権侵害救済申立てについては、
法務局が受付窓口となります。
と案内し、法的根拠の照会及び是正措置申入れについては、
令和8年4月23日付け8生環第59号で回答したとおりです。
と回答するにとどまっている。
本資料からは、須賀川市が5月8日付申入書を、人権侵害救済申立てと、法的根拠の照会及び是正措置申入れとに分け、前者には法務局を案内し、後者には従前回答を維持したことを確認できる。
一方、須賀川市が人権侵害救済申立てを法務局へ実際に送付又は引継ぎしたのか、法務局が申立てを受理し、調査又は判断を開始したのかは、本資料から確認できない。
また、6項目の照会事項及び5項目の申入事項に対する個別の判断、地方自治法第138条の2の2に基づく須賀川市長自身の公的判断、2025年4月19日の解釈を現在も維持しているのか、並びに須賀川市の権限内で可能な調査及び是正措置についても記載されていない。
同じ2026年(令和8年)5月20日には、須賀川市議会からも、同月8日付議会宛申入書について、4月23日付回答のとおりであるとする回答が発出された。
しかし、須賀川市長宛申入書と須賀川市議会議長宛申入書は、提出先、根拠規定、照会事項及び求める措置を異にする別個の文書である。
須賀川市側の本回答は、地方自治法第138条の2の2に基づく市長及び執行機関の責任並びに法務局への案内を含む点で、同日付の議会回答とは区別される。
本資料により、須賀川市長には、住民訴訟との具体的関係、弁護士に一任した事項の範囲、自らの判断及び責任、2025年4月19日の解釈を維持するか否か、無罪推定侵害の調査及び救済の意思並びに措置を講じない場合の法的根拠について明確な回答が求められたにもかかわらず、これらに対する個別の実体的判断が示されなかったことを確認できる。
本件で問われるのは、須賀川市長が須賀川市議会の決議を自ら撤回する権限を有するか否かだけではない。
須賀川市長及び市長部局が、自らの権限の範囲内で、市が保有する資料、市が実施した法律相談、市の従前の回答及び市自身の行政上の対応について、どのような調査、事実認定、法的評価、再検証及び是正措置を行い得るのかを判断したかという問題である。
また、自らの権限外であると判断する事項について、法務局、須賀川市議会、裁判所その他の権限ある機関による権利及び救済の決定へ、どのように接続したのかという問題でもある。
法務局を受付窓口として案内し、法的根拠の照会及び是正措置申入れには従前回答を維持した結果、いずれの権限ある機関も人権侵害の有無及び救済の要否について実体的な調査及び判断を行わないのであれば、自由権規約第2条第3項が定める効果的救済、権限ある機関による権利の決定及び認められた救済措置の執行は、地方公共団体に関係する人権侵害との関係で実質的に機能しないことになる。
さらに、その状態を、国内の権限配分、法務局への案内、係争中であること、弁護士への一任又は行政内部の処理方針によって正当化することが、日本国憲法第98条第2項及びVCLT第27条と両立するのかが、本資料によって問われている。
関連資料
関連する固定ページ:
関連する証拠記事:
2011年(平成23年)
須賀川市議会議会運営委員会会議録―起訴前勾留中の第1回辞職勧告決議に向けた内部協議
須賀川市議会議会運営委員会会議録―初公判前の第2回辞職勧告決議に向けた内部協議
2012年(平成24年)
須賀川市議会議会運営委員会会議録―判決確定後の第3回辞職勧告決議に向けた内部協議
須賀川市議会議会運営委員会会議録―判決確定後・辞職前の第4回辞職勧告決議に向けた内部協議
2025年(令和7年)
須賀川市議会提出文書―辞職勧告決議の検証と是正を求めた陳情書
須賀川市議会内部文書―人権侵害の是正を求める陳情書に関する会派代表者会議協議会結果報告
須賀川市内部文書―人権侵害の是正申入れ後に実施された法律相談
須賀川市議会内部文書―人権侵害の是正申入れ後に実施された法律相談
2026年(令和8年)
須賀川市・須賀川市議会宛文書―辞職勧告決議による人権侵害の調査、是正及び救済に関する質問状兼申入書
須賀川市発出文書―係争中の事件に関連するため弁護士に一任するとした回答
須賀川市議会発出文書―「法的解釈を示す機関ではない」として弁護士に一任した回答
須賀川市宛文書―人権侵害救済申立て並びに法的根拠の照会及び是正措置申入書
須賀川市議会宛文書―人権侵害救済申立て並びに法的根拠の照会及び是正措置申入書
須賀川市議会宛文書―一連の辞職勧告決議による違法な人権侵害の調査、再検証、是正及び再発防止措置を求める陳情書
須賀川市発出文書―人権侵害救済申立ては法務局を受付窓口とし、法的根拠の照会等には従前回答を維持した回答
須賀川市議会発出文書―人権侵害救済申立て等に対し「4月23日付回答のとおり」とした回答
関連する規範記事:
規範篇―自由権規約(ICCPR)第14条第2項:無罪推定の原則
規範篇―一般的意見32号30項:公的機関による判決前の裁判結果の予断禁止
規範篇―自由権規約(ICCPR)第2条第3項:実効的救済を受ける権利
規範篇―一般的意見31号15項:調査義務と救済不実施それ自体の問題
規範篇―条約法に関するウィーン条約(VCLT)第27条:国内制度を理由に条約義務を免れられるのか
