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見解篇―自由権規約委員会・Orkin v. Russian Federation:裁判所ウェブサイトの有罪表明と無罪推定

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「見解(Views)」とは何か

市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)は、生命に対する権利、身体の自由、公正な裁判を受ける権利、無罪推定、表現の自由など、市民的・政治的権利を保障する国際条約である。

自由権規約委員会(Human Rights Committee)は、ICCPRによって設置された独立した専門家からなる委員会であり、締約国によるICCPRの実施状況を監視する役割を担っている。

ICCPRには、これとは別に「自由権規約第一選択議定書」がある。第一選択議定書の締約国は、自国の管轄下にある個人から、ICCPRによって保障された権利を侵害されたとする通報を自由権規約委員会が受理し、検討する権限を認めている。

この手続は、一般に「個人通報制度」と呼ばれる。

個人から提出された通報について、受理可能性や当事者双方から提出された情報を委員会が検討し、個別事件についてICCPR違反があったかどうかなどを示した判断が、「見解(Views)」である。

「見解」は日本の裁判所による判決ではない。一方、単なる研究者の意見や一般的な声明とも異なり、ICCPRによって設置され、その解釈を担う自由権規約委員会が、具体的な事実関係にICCPRを適用して示した判断である。

本サイトでは、自由権規約委員会の見解を、日本又は本件について直接下された判断として扱うのではなく、ICCPRの各条項を自由権規約委員会が具体的事実にどのように適用しているのかを確認する比較資料として取り上げる。

見解の概要

事件名:
Orkin v. Russian Federation

通報番号:
No. 2410/2014

文書番号:
CCPR/C/126/D/2410/2014

採択主体:
国際連合自由権規約委員会
United Nations Human Rights Committee

見解採択日:
2019年7月24日

当事国:
ロシア連邦

本記事で扱う対象規定:
市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)第14条第2項

本記事で扱う主な論点:
第一審有罪判決後、上告審に相当する破棄審理前かつ判決確定前に、地方裁判所の公式ウェブサイトが本人を再犯者であり、全ての罪について有罪であり、精神疾患を偽装したとするプレスリリースを掲載したことと無罪推定、その公表が上級審へ与えた影響の立証

文書の種類:
自由権規約第一選択議定書第5条第4項に基づく自由権規約委員会の見解

個別意見:
José Manuel Santos Pais委員による一部反対意見
※同個別意見は主として第7条及び第9条についての反対意見であり、第14条第2項について多数意見と異なる判断を示したものではない。

確認方法:
国際連合が公開する公式文書により確認

掲載形式:
事案及び自由権規約委員会の判断を要約し、第14条第2項について受理不能とされた理由を整理する。あわせて、Brewer-Carías事件において本件がどのように参照されたのかを検討する。

原文資料:
国際連合公式文書
CCPR/C/126/D/2410/2014


この見解で確認できる事実

通報者Yury Orkinは、1964年生まれのロシア国民である。

2005年9月13日、通報者は知人宅にいたところ、私服の男らによって拘束され、その後、警察官から身体的虐待等を受けたと主張した。

刑事手続を経て、2007年4月19日、陪審は通報者について、複数の殺人、恐喝、フーリガン行為、銃器の違法取得、暴行等について有罪評決を行った。

2007年5月3日、Krasnoyarsk Regional Courtは通報者に終身刑を言い渡した。

その後、2007年12月25日、最高裁判所は通報者の破棄申立てを退けた。

無罪推定との関係で問題となったのは、第一審の裁判終了後であるものの、破棄審理前かつ判決が確定する前に行われた裁判所自身による情報発信である。

通報者によれば、Krasnoyarsk Regional Courtの公式ウェブサイトは、通報者について、

  • 再犯者である
  • 起訴された全ての犯罪について有罪である
  • 精神疾患を偽装した

とする内容のプレスリリースを掲載した。

通報者は、この掲載が最高裁判所の破棄審判断に影響し得たとして、第14条第2項が保障する無罪推定の侵害を主張した。


重要な判断

第14条第2項の主張は本案判断まで進まなかった

Orkin事件で最も重要なのは、第14条第2項について委員会が本案上の違反の有無を判断していないことである。

委員会は12.6項において、通報者の主張を確認した。

すなわち、

  • 第一審後
  • 破棄審理前
  • 判決確定前

の段階で、Krasnoyarsk Regional Courtの公式ウェブサイトに、通報者を再犯者とし、全ての犯罪について有罪とし、精神疾患を偽装したとするプレスリリースが掲載されたという主張である。

しかし委員会は、提出された資料に基づき、この事実が最高裁判所に影響し、第14条第2項上の権利侵害を生じさせたという主張を支える十分な根拠を通報者が示していないと判断した。

その結果、この部分については、

insufficiently substantiated

すなわち十分に立証されていないとして、自由権規約第一選択議定書第2条に基づき受理不能とされた。

「違反なし」と「受理不能」は区別する必要がある

この点は記事上、明確に区別する必要がある。

Orkin事件について、

「自由権規約委員会は、裁判所ウェブサイトによる犯人視を第14条第2項に違反しないと判断した」

と紹介することは正確ではない。

委員会は、この行為が第14条第2項に適合するとの本案判断を示したのではない。

あくまで、

その行為が最高裁判所へ影響し、第14条第2項侵害を生じさせたことについて、通報者の立証が不十分であった

として、受理可能性の段階で審査を終えている。

したがって、本件は第14条第2項違反を否定した先例というより、「影響」の立証を要求した受理可能性判断として読む必要がある。


第一審判決後でも無罪推定が問題となった点

Orkin事件には、もう一つ特徴がある。

問題となった公表は、逮捕直後や起訴前ではなく、第一審で有罪評決及び有罪判決が出た後に行われた。

しかし、その時点では、

  • 破棄審理が残っていた
  • 判決はまだ確定していなかった

と通報者は主張している。

委員会も12.6項で、この時系列をそのまま確認した上で第14条第2項の主張を検討している。

したがって、少なくとも委員会は、第一審有罪判決が存在するという理由だけで、第14条第2項の主張を当然に適用外とはしていない。

もっとも、最終的には立証不足を理由に受理不能としているため、この事件だけから、第一審判決後の無罪推定の具体的射程について確定的な結論を導くことはできない。


誰による公表だったのか

Gridin事件やCedeño事件との相違として重要なのは、公表主体である。

Gridin事件では、高位の法執行機関職員による公的発言が問題となった。

Cedeño事件では、大統領の全国放送での発言が問題となった。

Orkin事件で問題となったのは、刑事事件を扱ったKrasnoyarsk Regional Courtの公式ウェブサイトである。

つまり、公的機関の範囲という観点では、

  • 法執行機関
  • 行政府の最高位にある大統領
  • 裁判所

という異なる国家機関による情報発信が、第14条第2項との関係で問題とされてきたことになる。

ただし、Orkin事件については、その公表行為自体について第14条第2項違反が認定されたわけではないことを併せて確認する必要がある。


Brewer-Carías事件との関係

Orkin事件の重要性は、2021年のBrewer-Carías v. Bolivarian Republic of Venezuelaにおいて明確になる。

Brewer-Carías事件の多数意見は、公的機関による有罪の予断について、

  • その公的機関が刑事手続に直接関与している必要はない
  • その発言が起訴の根拠として使用されている必要もない

とした上で、第14条第2項違反を認定した。

これに対し、José Manuel Santos Pais委員は反対意見を付した。

同委員は、委員会の従前の見解には、公的発言が本人の裁判結果へ与えた影響について通報者による立証を求めているように見えるものがあるとして、

  • Khudayberdiev v. Kyrgyzstan
  • Kh.B. v. Kyrgyzstan
  • Orkin v. Russian Federation

の3件を明示的に引用した。

Orkin事件について引用されたのは、まさに12.6項である。

したがって、Orkin事件が後の議論において持つ意味は明確である。

公的機関による有罪を示唆する行為について、

その行為自体を問題とすれば足りるのか

それとも、

刑事裁判又は上級審の判断へ実際に影響したことまで立証する必要があるのか

という対立の、後者を支える先行判断の一つとしてSantos Pais委員が引用している。


Kh.B.事件・Khudayberdiev事件との関係

Kh.B.事件では、議会決議について、通報者が最終判決への具体的影響を十分に示していないことが重視された。

Khudayberdiev事件の多数意見でも、議会決議が刑事手続にどう影響したのかについて情報がないことを理由として、第14条第2項違反は認定されなかった。

Orkin事件でも、裁判所ウェブサイトによる公表が最高裁判所に影響したことについて、十分な根拠が示されていないことが重視された。

したがって、

Kh.B. → Orkin → Khudayberdiev

には、公的機関の行為又は表明と第14条第2項との間で、刑事裁判への具体的影響を要求する方向の判断という共通性を見ることができる。

ただし、手続上の位置付けは同じではない。

Kh.B.及びKhudayberdievでは第14条第2項について本案判断が行われ、違反なしとされた。

これに対してOrkinでは、受理可能性の段階で立証不足として受理不能とされた。

この違いは維持する必要がある。


この見解から生じる疑問

裁判所自身の公式ウェブサイトが、判決確定前の被告人について、再犯者であり、全ての罪について有罪であると公表した場合、その行為は無罪推定との関係でどのように評価されるべきなのか。

第14条第2項の侵害を認定するためには、その公表が上級審裁判官の判断に実際に影響したことまで立証する必要があるのか。

また、裁判所による公表の場合、一般の行政機関や警察による発言以上に、受け手がその内容を権威ある事実認定として受け止める可能性はないのか。

一方、第一審で既に有罪判決が出ているが、まだ確定していない段階では、第14条第2項による無罪推定はどの範囲で維持されるのか。

Orkin事件は、これらについて本案上の回答を示したものではない。

しかし、委員会がその主張を第14条第2項の問題として取り上げたうえで、上級審への影響の立証不足を理由として受理不能としたことは、後の見解との比較上重要である。


関連法規・条約・国際法上の基準

市民的及び政治的権利に関する国際規約第14条第2項

刑事上の罪に問われている者について、法律に基づいて有罪とされるまでは無罪と推定される権利を保障する規定である。

Kh.B. v. Kyrgyzstan

CCPR/C/120/D/2163/2012。

議会決議と無罪推定について、決議が最終判決へ与えた影響の立証を重視し、第14条第2項違反を認定しなかった見解である。

Khudayberdiev v. Kyrgyzstan

CCPR/C/127/D/2522/2015。

議会決議と無罪推定が問題となり、多数意見は刑事手続への具体的影響を重視して違反を認定しなかった。一方、古谷修一委員は反対意見において、公的機関による有罪の示唆それ自体が問題となり得るとの立場を示した。

Brewer-Carías v. Bolivarian Republic of Venezuela

CCPR/C/133/D/3003/2017。

公的機関が刑事手続に直接関与していることも、その発言が起訴の根拠として用いられていることも必要ではないとして、第14条第2項違反を認定した。

同事件のSantos Pais委員の反対意見は、これと異なる従前の判断の一つとしてOrkin事件12.6項を明示的に引用している。


本件との関係

Orkin事件と本件では、問題となった公的機関、行為の形式及び刑事手続の段階が大きく異なる。

Orkin事件では、第一審有罪判決後、破棄審理前かつ判決確定前に、裁判所の公式ウェブサイトが本人を有罪であるとする内容を掲載した。

本件では、第1回辞職勧告決議が起訴前、第2回辞職勧告決議が初公判前に地方議会によって採択されている。

したがって、Orkin事件の結論をそのまま本件へ適用することはできない。

一方、比較上重要なのは、Orkin事件が、公的機関による有罪を前提とする情報発信と無罪推定との関係について、上級審への具体的影響の立証を重視した例として、後のBrewer-Carías事件で明示的に参照されていることである。

本件について考える場合にも、

  • 辞職勧告決議が刑事裁判に実際に影響したことまで必要なのか
  • 公的機関による有罪の予断それ自体に独立した第14条第2項上の意味があるのか
  • 「影響」を要求する場合、裁判官の内心又は判断形成への影響を本人側がどのように立証できるのか
  • 起訴前又は初公判前という本件の時期的事情をどのように評価するのか

が問題となる。

Orkin事件は、本件を直接支持する違反認定例ではない。

むしろ、Kh.B.事件及びKhudayberdiev事件の多数意見とともに、「具体的影響を立証すべきである」という反対方向の論理を検討するための資料である。

その上でBrewer-Carías事件及び後続の見解と比較することで、第14条第2項の保障が、刑事裁判への具体的影響を必要とするものなのか、それとも公的機関による有罪の予断それ自体を規律するものなのかを検証することができる。


関連資料

見解篇―自由権規約委員会・Gridin v. Russian Federation:法執行機関による犯人視と無罪推定(2000)

見解篇―自由権規約委員会・Cedeño v. Bolivarian Republic of Venezuela:大統領による犯人視と無罪推定(2012)

見解篇―自由権規約委員会・Kh.B. v. Kyrgyzstan:議会決議の刑事裁判への影響と無罪推定(2017)

見解篇―自由権規約委員会・Orkin v. Russian Federation:裁判所ウェブサイトの有罪表明と無罪推定(2019)本記事

見解篇―自由権規約委員会・Khudayberdiev v. Kyrgyzstan:議会決議と無罪推定(2019)

見解篇―自由権規約委員会・Brewer-Carías v. Bolivarian Republic of Venezuela:公的機関による有罪の予断と無罪推定(2021)

見解篇―自由権規約委員会・Berezhnaya and Gershankova v. Belarus:捜査当局による情報提供と無罪推定(2024)

()内の数字は、国際連合自由権規約委員会による採択年。

English version:

掲載予定

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